ステランティスジャパンは、ジープの新型コンパクトSUV「アベンジャー」を2024年9月26日に発売しました。ジープ史上最も小さいSUVとなる同車ですが、その実力はどのようなものなのでしょうか。まるも亜希子氏がレポートします。
■ジープ史上最も小さいSUVの実力は?
ジープブランド初の100%ピュアEVとして誕生した、ジープ「アベンジャー」。これまでジープのエントリーモデルを担っていたレネゲードよりも、さらに150mm短い全長4105mmに、30mm小さい全幅1775mmというコンパクトサイズのSUVは、実車と対面すると想像以上に「ちゃんと小さい」ことがわかります。
輸入車のコンパクトは国産車のコンパクトよりずっと大きいと思っている人も、全長はトヨタ「ヤリスクロス」より80mm短いくらいでほぼ同等と聞けば、納得してくれるのではないでしょうか。
エクステリアデザインは、ジープの伝統を受け継ぎながら、実は従来からオーナーだけが気づく程度のさりげなさで散りばめられていた「遊び心」が盛大にふりかけられているところが大きな魅力。
たとえば、伝統の「7スロットグリル」はヘッドランプよりも前に出る配置となっており、これは万が一の衝撃からヘッドライトを守るため。ボンネットから続くサイドのベルトラインはほぼ水平にリアへと続き、車両感覚のつかみやすさや死角の少なさに貢献しています。
クーペ風のスタイルを優先してリアへとキレ上がっていくラインのSUVが多い中、これは命がけで走る極限のシーンまで想定したジープらしいところだと感じます。
リアには、レネゲードから譲り受けた米軍のジェリー缶をモチーフとした「X」のデザインが特徴的なテールランプを採用。今回、この「X」をカモフラージュデザインに仕立てた「X-camo」がアベンジャー独自のモチーフとしてあちこちに使われているのも面白いところです。
そして「遊び心」である隠れジープや隠れキャラは、さっそくフロントグリルやフロントウインドウ、テールゲートなどに発見。どこにあるだろうとワクワクして、見つけるとちょっと誰かに自慢したくなる、とても楽しい演出です。
インテリアでは、運転席の目の前に10.25インチのマルチビューディスプレイが置かれ、鮮やかな画面に先進性を感じますが、全体的なデザインは水平基調で太くゴツめのラインがガッシリと頼もしい雰囲気をつくっています。
収納スペースが多く、ダッシュボードの下や大型のセンターコンソール部分、ドアポケットなど、容量としては合計26リットルにもなるほど。とくに、センターコンソールの収納はワイヤレスチャージャーも兼ねており、USBや12V電源ソケットも備わって使いやすそうです。
シートは運転席が6wayパワーシートで、たっぷりとしたサイズと分厚いクッション、やや大きめに張り出したサイドサポートが身体をしっかりと支えてくれる座り心地。
助手席は手動のシートですが、2人で並んでもゆったりとしたスペースがあります。ドリンクホルダーの仕切りの形状や、シートの背もたれに入る模様がリンクしているのがとってもオシャレ。
ドアを開けたところに「X」モチーフがあったりと、インテリアでも遊び心が感じられます。
アベンジャーは、54kWhのバッテリーを車両下部に搭載し、156ps/270Nmのパフォーマンスと一充電航続距離486km(WLTCモード)を達成。普通充電だけでなく急速充電にも対応しているので、日常からレジャーまでを想定したモデルです。
システムオンのスイッチを押すと静かにディスプレイが光り、アベンジャーのイラストが現れて走行準備OKであることを知らせてくれます。
シフトはセンターコンソールに横並びのボタンで選択するタイプ。最初は慣れず、ブラインド操作も難しいので賛否ありますが、突起物がなくなったことですっきりとしたインパネになり、収納が大きくとれ、室内もより広々とした空間にできるというメリットがあります。
エアコンのスイッチやオーディオの操作は小ぶりながら物理スイッチが残されており、先進的すぎないところもジープらしさ。寒い地域では、グローブをしたまま操作する人が多いことも考えているのではないかと感じました。
■小さくてもしっかり“ジープ”!
今回は都心のみの試乗ということで、早々に首都高にのるコースを選択。FFで、1570kgというBEVとしてはそれほど重くない車重もあるのか、発進から軽快でスルスルとした加速フィールが感じられます。
ステアリングも一般道ではやや軽めですが、首都高で本線の流れに合わせていくと相応の落ち着きが出てきます。
全体的に、オフロードでの操作を視野に入れた懐の深さも感じさせる、おおらかなフィーリング。感心したのは腰下のしっかり感と乗り心地の良さを両立しているところで、首都高の継ぎ目もゴツンとはくるものの上手くおさめ、市街地の舗装の悪いところやマンホールなどでも不快な衝撃は抑えられていると感じます。
さすが、約200万km以上のテスト走行を行い、そこにはもちろんオフロードも含まれているというのも納得。今回は試す場所がなかったのですが、ジープのFFモデルとして初めて6つの走行モードが選択できる「セレクテレイン」と、急な下り坂を一定の速度で走行できる「ヒルディセントコントロール」を標準装備。
アンダーボディにはスキッドプレートが装備されているので、多少の悪路も安心とのことでした。
さらに、センターコンソールの後方にはセレクテレインのモード切り替えボタンがあり、「ノーマル」「エコ」「スポーツ」「スノー」「マッド」「サンド」の6つの走行モードが選択できるようになっています。「ノーマル」「エコ」「スポーツ」は驚くくらいキャラクターが変わるというほどではないものの、スポーツを選ぶと首都高のくねくねとしたカーブでメリハリのある走りができて、かなり楽しめました。
念のため、舗装路でしたが「スノー」「マッド」「サンド」も試してみると、発進やアクセルに対するレスポンスがやや穏やかに感じたり、滑りやすい路面などでの走行をサポートしてくれる感覚がありました。
帰路は後席にも試乗してみると、足元や頭上は広いというほどではないですが、座高の高い私でもギチギチということはなく、少しゆとりはあります。
座面もやや短いですが、クッションはしっかりと厚みがあり、窓が大きくとってあるので視界も開けています。後席にドリンクホルダーやセンターアームレストがないのは残念ですが、USBは1つ装備されていました。
乗り心地は前席で感じたよりはゴツゴツが多くなるものの、おおむね快適。不快な振動や突き上げもなく、これならファミリーでも不満は出ないだろうと思います。
ラゲッジはスクエアな開口部とスペースで、容量は355Lを確保。コンパクトSUVとしては十分な容量で、後席を6:4分割で倒すことができます。
両方倒しても少し傾斜が残るので車中泊には向かないかもしれませんが、フロアボードの高さが変えられて二段にも使えるのが便利です。試乗車の下の段には普通充電のコードが収納されていました。
コンパクトクラスには贅沢なハンズフリーパワーリフトゲートも装備されており、両手がふさがっている時もスマートに開閉できます。
こうして都心部をドライブしてみて、最小回転半径が5.3mという小回り性能も含め、とても快適で楽しく運転しやすいBEVであることは確かだと感じました。でも何かまだ、アベンジャーの魅力の半分も発揮できていないような、ちょっともったいない気がしたのも正直なところ。
このクラスでFFなのにセレクテレインが装備され、6つの走行モードを備えているコンパクトSUV、しかもBEVというのはアベンジャーだけ。本当なら、砂浜や砂利の河原、雪道やキャンプ場へ続く未舗装路などを走ったら、もっともっとあふれるような魅力が体感できたのだろうと思います。
「次こそは、どこか遠くへ」と想像してワクワクできること。「どこへでも行ける」という頼もしさで満たされること。そんな、「ラングラー」と変わらないジープらしさを胸いっぱいに感じさせてくれたアベンジャーでした。