新車市場で最も販売台数が多いのは「軽自動車」ですが、なかでもスライドドアを装着した全高が高いタイプばかりが売れ筋となっています。売れるクルマにはどのような条件があるのでしょうか。
■スライドドアを備えた背が高い「軽」が売れまくる事情とは
日本車の売れ方をカテゴリー別に見ると、国内で最も販売台数が多いのは相変わらず「軽自動車」で、新車として売られるクルマの38%前後を占めています。
軽自動車は基本的に日本独自のカテゴリーですから、デザイン、機能、使い勝手は、すべて日本のユーザーに合わせて開発。
コンパクトカーよりも小さいボディは混雑した街中でも運転しやすく、しかも軽自動車には天井が高くて車内の広い車種が多いため、ファミリーカーとしても使いやすいです。
そして最近は安全装備や運転支援機能の充実、原材料費の高騰などにより、クルマの価格が高まっています。
15年前の2009年なら、ミニバンの人気車であるホンダ「ステップワゴン」のベーシックなGが208万8000円で用意されていました。それが今は、ステップワゴンの最も安価なグレードが316万9100円です。
装備が充実した代わりに100万円以上値上げされ、比率に換算すれば1.5倍に達しました。
その一方で天井の高い軽自動車であるホンダ「N-BOX」などは、ボディサイズの割に車内が広く、スライドドアも装着しながら売れ筋価格帯は180万円から200万円です。
平均所得は過去20年ほどの間、ほとんど上がっていないため、15年前のステップワゴンの予算で購入できる背の高いスライドドア装着車は、今はN-BOXなのです。
このような事情により、2024年度上半期(2024年4月~9月)の国内販売ランキングは、1位がN-BOXで2位はスズキ「スペーシア」となり、いずれも全高が1700mmを超えるスライドドアを装着した背の高い軽自動車、いわゆる「軽スーパーハイトワゴン」でした。
そして全高が1700mmを下まわる少し背の低い軽自動車(軽ハイトワゴン)は、販売が全般的に低迷しています。
なぜ今の軽自動車は、N-BOXのような全高が1700mmを超えるスライドドア装着車が人気なのでしょうか。ホンダの販売店に聞いてみました。
「(軽ハイトワゴンの)N-WGNの価格は、同じ位置付けのN-BOXに比べて15万円から20万円は安いです。価格を重視するお客様にはN-WGNをすすめますが、大半のお客様はN-BOXを購入します。
N-BOXが選ばれている理由はスライドドアです。今の軽自動車は、価格や税金の安さではなく、スライドドアが付いているために選ばれ、N-BOXを購入するお客様が増えました」
なぜそこまでスライドドアが人気なのでしょうか。メーカーの商品企画担当者は次のように言います。
「今のクルマ選びでは、スライドドアの装着が基本です。
スライドドアを備えたミニバンは、1990年代の前半に、急速な普及を開始しました。
そのために40歳以下には、スライドドアと天井の高いボディに親しんだお客様が多く、2列シートの軽自動車やコンパクトカーにも同様の機能を求めます。
特に子育て世代のお客様には、絶大な人気があります」
販売店からは観点の違う話も聞かれました。
「今は子供を幼稚園や保育園に送り迎えする時、背の高いスライドドアを備えた軽自動車を使うことが多いです。
スライドドアは開閉時にドアパネルが外側へ張り出さず、狭い場所での乗り降りに便利ですが、ほかの理由もあります。
ユーザーのお母さん達によると、ほかのママ友もスライドドアの付いた軽自動車を使っているから、と言います」
つまり「みんなが使っているN-BOXやスペーシアなどを選んだ方が、何となく安心できる」という事情があるようです。
日常生活に根ざした軽自動車はこのように選ばれる側面もあり、N-BOXやスペーシアの好調な売れ行きに結び付いています。
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このほか販売戦略やローンの金利、残価設計ローンの残価なども影響を与えています。
例えば残価設定ローンを利用する場合、3年後の残価はN-BOXカスタムが新車価格の55%、N-WGNカスタムLは49%です。
残価設定ローンでは残価を除いた金額を分割返済するため、残価の高いN-BOXの方が、月々の返済額が抑えられて販売促進の優れた効果を発揮します。
この背景には、N-BOXがN-WGNよりも中古車として高値で売りやすい事情があります。
しかも2024年10月中旬時点で、東京地区の販売店では、N-BOXに関して残価設定ローンなどを使うとカーナビを10万円安く装着できるキャンペーンを実施しています。
N-WGNやN-ONEは対象外なので、売れ行きはますますN-BOXに偏るでしょう。
ホンダでは「N-WGNの販売テコ入れが今後の課題」としていますが、これらの販売促進を見ると、人気のN-BOXと軽ハイトワゴンのN-WGN・N-ONEとの販売格差は一層広がるのかもしれません。