1990年代に、三菱は1.5リッタークラスのクルマに1.6リッターのV型6気筒エンジンを搭載しましたが、残念ながら数年で搭載を終えてしまいました。なぜ消滅してしまったのでしょうか。
■世界最小の「V6エンジン」 非常に優れた機構もデメリットが目立つ結果に
標準的な直列4気筒エンジンに比べると上質な回転感覚を持ち、スムースで静粛性にも優れている6気筒エンジンは、古くから様々なメーカーの上級車種に採用されてきました。
中でも、直列6気筒に比べ、エンジンの全長をコンパクトにできるV型6気筒(V6)エンジンは、FF(前輪駆動車)への搭載も容易だったこともあり、1980年代に急速に搭載車種を増やしていきました。
日本におけるV6エンジン初搭載は、1983年に登場した日産「セドリック(6代目)/グロリア(7代目)」でした。当時の日本では排気量2リッター以上のクルマにかかる税金が高額だったため、自ずと2リッターV6エンジン搭載車が数多く誕生したのです。
世界的に見ても、V6エンジンといえば2リッタークラスより上が通例でしたが、1990年代に入ってクルマ全体の高級化が進むと、バブル景気や“イケイケ”ムードも後押しして、2リッター以下のクラスにもV6エンジンを載せる車種が現れました。
その第一弾が、1991年5月にマツダが発表したユーノス「プレッソ」用1.8リッターV6エンジン、「K8-ZE型」です。
量産車として世界最小といわれた驚異の小排気量V6エンジンの出現は、当時大いに注目を集めました。
そして同年10月、三菱が発売した「ランサー」(5代目)には、さらに小さな1.6リッターのV6エンジン「6A10型」が用意されてさらに話題に。マツダの「世界最小」記録は、わずか数ヶ月で破られてしまったのです。
さらに1992年2月には、ランサーの兄弟車「ミラージュ」(4代目)にも6A10型搭載グレードを追加しました。両車ともに数多くのエンジンを設定していましたが、6A10型を積むモデルは「ランサー6」「ミラージュ6」と称されています。
三菱が「セダンにふさわしい静かでなめらかな走りを生む、1600ccクラス世界初のV型6気筒DOHCエンジン」とカタログに記した6A10型は、小型軽量・高剛性を誇るエンジンブロック、電子制御可変吸気システム(MVIC)、圧力検出式カルマン渦エアフローセンサー、高精度な電子制御燃料噴射システム(ECIマルチ)など、三菱が誇る最先端技術を存分に盛り込んでいます。
最高出力140ps/7000rpm、最大トルクは15.0kg-m/4500rpmというスペックを持ち、ショートストロークにより高回転まで気持ちよく回る特性を有しています。
一方で、エンジン1気筒あたりの適正排気量が400〜600ccといわれるのに対し、6A10型の気筒容積はわずか266ccほどしかなかったため、同クラスの4気筒エンジンに比べると「低速トルクが細い」という評価も受けてしまいました。
さらに、1.6リッターV6エンジンは、燃費面でも不利に働きました。
高回転型エンジンという特性、気筒容積が小さいゆえに作動抵抗が大きく、熱効率も悪くなり、そして部品点数も多くエンジン重量が重いため、車重は90kgほど重くなるなど、燃費を悪化させる要素がいっぱいでした。
燃費や経済性、実用的な性能が求められる1.5リッタークラスの実用コンパクトセダン、ランサー/ミラージュ用のエンジンとしては、明らかにオーバースペックで贅沢な設計だったといえます。
とはいえ、ボディ後部に輝く「LANCER 6」「MIRAGE 6」の威厳は普通ではなく、筆者(遠藤イヅル)は当時でさえ路上で見かけたら目を見張ったことを覚えています。
6A10型は基本的に上位グレードに搭載され、ランサーには「MXサルーン」「MXリミテッド」「ロイヤル」、ミラージュでは「VIEサルーン」「リミテッド」「ロイヤル」が設定されていました。
なお「ロイヤル」以外のグレードは、1.5リッターなどにも同名で展開されていました。
しかし例外として、ランサーの廉価グレード「1.5エクストラ」にもV6を載せていたのは興味深いところです。質素な内外装からはV6エンジン搭載車のオーラはまったく出ておらず、低廉グレードにV6エンジンというギャップに新鮮な驚きさえ感じさせます。
なお1995年に登場した6代目ランサー/ミラージュにも、小排気量V6エンジンが引き継がれましたが、新たに載せられた「6A11型」は排気量が1.8リッター化して特性をいくばくか変更。
さらには、ヘッドをSOHC化してコストダウンも図られていました。そして、マイナーチェンジでは6A11型はわずか3年ほどで廃止されてしまい、V6ランサー/ミラージュの歴史はここで幕を閉じています。
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1.5リッタークラスのファミリーセダンに、実用車のエンジンとしては不適ともいえる1.6リッターV6エンジンを載せ、プレミアムなクルマを作ろう!という発想が生まれ、企画が通り、開発・生産・販売が行われたのは驚くべきことです。
エンジンのダウンサイジングが進み、1.5リッタークラスではもはや3気筒が一般的、高級車でも4気筒化が進んでいる現代では、きっと二度と生まれないエンジンであることは間違い無いでしょう。