石川県小松市の「日本自動車博物館」には、地元小松市と縁が深い企業・小松製作所が作成した「農民車 コマツ」が展示されています。
■地元発の世界的企業が開発した「小さなクルマ」
石川県小松市には日本最大級の自動車博物館「日本自動車博物館」が置かれています。歴史的な国産車だけでなく、半世紀以上前に海外メーカーが生産していた極めて希少なスポーツカーなども収蔵されています。
そんななか、「農民車 コマツ」と称する小さなクルマも存在します。
農民車 コマツは1960年3月に発表された小型作業車です。製作したのは博物館のある小松市内で設立し、現在では建設機械で世界的なシェアを獲得している小松製作所(コマツ)です。
農民車 コマツはコンセプトを「農民用万能車」とし、ターゲットを農作業従事者に設定。田畑などの農作業現場への往復だけでなく、自宅周辺での買い物に利用できる「日常の足」として開発されました。
ボディサイズは全長2300mm×全幅980mm×全高1230mm。軽自動車よりもかなり小さな体格となっており、感覚的にはシニアカーなどに近いのかもしれません。
外観に目を向けると、さすがに簡素なデザインとなっているのがわかります。フロントフェイスともいう部分には2つの丸いヘッドライトを備え、けん引用フックやコマツの旧ロゴがあるのみ。
中央にはパンチング加工を施したシートとハンドルが置かれ、ルーフやドアなどはなく、完全にむき出しとなっています。ただ、その分農作業道具などは置きやすそうで、機能的ともいえます。乗車定員は3人ですが2人分の座席はなく、自由に座って良さそうです。
ボディ自体は非常に明るいレッドに塗装され、サイドには「コマツ」のデカールが貼られ、信頼性をアピールします。
パワートレインには、最大7.5馬力を出力する空冷4サイクル単気筒エンジンを運転席後部の床に搭載。変速機は4速MT、駆動方式は後輪駆動です。また、左右独立の後輪ブレーキが付いており、これは別々に制御できたそうです。
ちなみに、タイヤは前後で異径となっており、リアはトラクター用を装着。最低地上高もとても高く、悪路でも高い走行性能を発揮するものと思われます。
農民車 コマツは当時の価格で26万円、約2年間で4300台が作られました。ちなみに道路運送車両法では小型特殊自動車扱いになっており、耕転機と同じく小型特殊免許が必要になるそうです。
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1960年代といえば、ちょうど日本が高度成長期に入った頃。マイカーの所有が徐々に現実味を帯びてきた時期です。
それを鑑みると、農民車 コマツは日本のモータリゼーション初期の一面を表しているともいえるでしょう。
また、非常にシンプルなつくりや、最低限の性能で移動できる点では、現代におけるシニアカーとも共通性を感じさせ、地方での移動の課題を解決しようとしていたのは、とても興味深いものです。
ほかの自動車博物館ではめったに見られない、極めて貴重な車両ですので、博物館を訪れた際にはぜひ注目して欲しいと思います。