山岳トンネルでは日本一の長さを誇る、関越自動車道の「関越トンネル」。管理用の専用施設をめぐるツアーが開催され、普段は見ることのできない現場を見ることができました。
■関越トンネルの「裏側」に大興奮
群馬県と新潟県をつなぐ関越自動車道「関越トンネル」は、長さが下り10926m・上り11055mもあり、山岳トンネルで日本一の長さを誇ります。
果てしなく続くようなこの長大トンネルの安全を守るため、普段目にしない場所に、さまざまな対策施設が設けられています。
今回、その「関越トンネルの裏側」をのぞくことができました。
訪問したのは、上下線で別々になっているトンネルのあいだにある「避難坑」と、そこから枝分かれして地中にある換気設備、そして地上に突き出す「換気塔」です。
もちろん一般人は普段入れませんが、「関越トンネル探検ツアー」といったイベントが定期的に開催され、参加者が潜入できるようになっています。年間5~6回行われ、今回(10月19日)開催されたツアーは2024年最後の回でした。冬が来ると降雪対応などで大忙しになるため、イベントを開催できる余裕がなかなか無いといいます。
ツアーは新潟県側の土樽PAから出発します。関越トンネルは危険物運搬車が通行できないため、うっかりやってきてしまったトラックがUターンするための「待避路」がありますが、そこから分岐して、避難坑へはいり、延々と奥へ進みます。
避難坑はクルマ1台程度の幅で、照明も最小限。ところどころ、両側の本線トンネルから避難してくるための連絡路のドアが見えます。連絡路は下り線が350m間隔で31本、上り線が750m間隔で16本あるとのこと。下り線の方が数が多い理由は、昔は1本のトンネルで上下線をまかなっていたため、需要が単純計算で2倍だったからです。
さて、そうこうしているうちに、換気所への分岐点に着きました。換気所は2か所あり、群馬側が「谷川換気所」、新潟側が「万太郎換気所」です。維持整備が大変なので、一般客が入れるのは今回訪問した谷川換気所に限定されています。
換気所への連絡路を歩くと、道中に湧き水が飲める地点があります。「谷川岳の6年水」という愛称のある湧き水は、その他のとおり長時間の濾過で澄み切っています。ミネラル分がきわめて少ない超軟水で、これはトンネル維持管理の面でも、管内に余計な析出物が付着しないで済むありがたい面があるといいます。谷川岳PAでもこの湧き水が飲めます。
隣には、湧き水を約1400トンも溜めておくプールがあり、消火などに役立てられるといいます。
■デカい!喚起施設とデカい!換気塔で濃厚な時間
ツアーの一行は、やがて換気所へと到着します。内部の見どころは、なんといっても換気のためのファンです。
トンネル内の汚い空気を排出するための「排風機」、地上からきれいな空気を送り込む「送風機」が、それぞれ2本ずつ、上下線用に装備。合計8本のファンが用意されています。上から見下ろすと、巨大な送排風機の鋼管が8基並ぶ圧巻の光景です。巨大なファンを動かすための機械室も、映画に出てくるちょっとした組織の秘密基地のような規模でした。
これらは常時フル稼働しているわけではありません。昭和中期の排ガス規制以降、クルマの排気ガス自体がどんどんきれいになっているので、所定のトンネル空気環境をクリアするのに必要なファン稼働性能も低減しているからです。
ファンは年間1基ペースで大規模修繕されていて、換気所内のドックでも、修繕で羽を全てもがれたファン本体の姿がありました。
さて、ファン室から二重ドアを抜けると、いよいよ換気ダクトに入ります。さっき見下ろしたファンの中身が目の前に見えます。ファンの羽と外壁との隙間はわずか3ミリで、効率よく空気を送ることができる仕組みです。
換気ダクトの長さは約650m。ランプが並べられ、高天井でヨットの帆のような変則断面の幻想的な洞窟を、延々と歩き続けます。
洞窟は唐突に行き止まりになり、そこが換気塔です。空気口はそこから真上にのぼり、谷川山系の地上までつながっています。
その換気塔をのぼれば地上まで到達できます。これが今回のツアーのハイライトですが、高さは180m、階段は600段。数字だけではピンと来ませんが、なんと東京タワーの階段と同じだけの急登が待ち構えています。
20分以上かけ、気力をふり絞って登りきると、目の前には谷川山系の山肌が広がります。ゴツゴツしたガレ場が荒々しく、それでいて薄い樹木が少しずつ色づき始めています。みるみる間に稜線は濃厚な雲に飲み込まれ、厳しい山の気候を感じさせます。
見上げると、今登って来た換気塔が、さらに40mほど天へそびえています。天頂へは登る手段が無く、点検はドローンで行い、修繕はその都度足場を組む必要があるといいます。
最後は群馬県側入口へ出ました。関越トンネルを象徴する、青タイル状のフチが広がり、内側へすぼまるような独特のデザインの新潟方面入口を間近で眺められます。設計したのはデザイナーの柳宗理で、ラッパ状の形状はトンネル進入時の空気抵抗を緩和する効果があるといいます。
美しい青フチのトンネル坑口は、ドライブ中に一瞬通り過ぎる時より、近づいてじっくりと見ることで、一層美しさを増して感じられました。
参加者のひとりは「建設中の高速道路など、土木の現場を見学するのが好きです」と話します。今回の関越トンネルは初めてで、一度訪れてみたかった憧れの場所だったとか。「ちょっと見学して、ちょっと歩いて帰るものだと思っていたら、想像以上のボリュームがある濃厚なツアーだったので、驚きました。他の現場もそうですが、土木構造物のスケールの大きさには、毎度圧倒されます」と話していました。