富山から立山連峰付近を長大トンネルで抜け、長野県側へ一気にショートカットする「北アルプス横断道路」という大プロジェクトが、実現に向けて水面下で動いています。いったいどのような道路で、どこまで話が進んでいるのでしょうか。
■北アルプスを長大トンネルでつらぬく構想
富山から立山連峰付近を長大トンネルで抜け、長野県側へ一気にショートカットする「北アルプス横断道路」という大プロジェクトが、実現に向けて水面下で動いています。
いったいどのような道路で、どこまで話が進んでいるのでしょうか。
日本列島でも有数の山岳地帯が、富山・長野・新潟・岐阜の4県にまたがる「飛騨山脈」、通称「北アルプス」です。
剣岳や立山、槍ヶ岳など3000m級の急峻な山が連なり、その広範囲な規模のために、通過道路は一切ありません。かろうじてロープウェイや地下トンネルで立山~大町をつなぐ観光交通ルート「立山黒部アルペンルート」があるのみです。
このエリアをクルマで東西に移動するには、日本海側を糸魚川経由で迂回するか、乗鞍・上高地経由で松本へ抜けるしかありません。
日本でも稀有な「道路空白地帯」ですが、そこに長大トンネルを通して大幅なショートカットを図る構想が、古くから存在しました。それが「北アルプス横断道路」です。
もし実現すれば、富山~大町は概算して約50kmで到達可能です。そのまま長野市まで直線距離でつなぐルートも視野に入ってきます。まさに北陸・信州エリアの移動を劇的に変化させる夢の道路です。
■実現に向けて「やる気満々の県」とは!?
気になる実現までの道のりですが、国土交通省が将来的に事業化をめざす計画・構想を公表している、2021年策定の「新広域道路交通計画」では、北アルプス横断道路は「構想路線」に位置付けられてすらなく、全く触れられていません。
ではただの夢物語かというと、そうではありません。実は、富山県は2018年に総合計画「元気とやま創造計画」にて、長期構想に「北アルプス横断道路構想の推進」を明記。さらに県が独自に策定した2021年の「富山県新広域道路交通計画」でも、構想路線として北アルプス横断道路が明記されているのです。
自治体や関係団体も「北アルプス横断道路構想推進会議」を設立し、要望活動を続けています。
まず最初のハードルは、長野県のほうでも総合計画や道路交通計画にきちんと盛り込んでもらうことです。最低限の条件として県どうし足並みがそろっていないと、国に構想路線として認めてもらえません。
動きは国会でも見られます。2024年2月の予算委員会で、国交省道路局の丹羽克彦局長は、北アルプス横断道路の推進について答弁を求められました。
丹羽局長は「世界水準の山岳観光地を周遊するルートとして期待されるものと認識しております」「特殊な地山条件の介在が想定される」「大規模なプロジェクト」としたうえで、「実現のためには、引き続きこの両県の連携と、あと国民のコンセンサスが得られることが重要」と答弁。先述のとおり「長野県側がやる気を出さないとどうにも…」という背景事情が見え隠れします。
いっぽう、富山県議会でも、2024年6月の予算特別委員会で、北アルプス横断道路についての議論がありました。新田知事の答弁では、2月に富山県議会から長野県側とのあいだで、さらに5月にも県当局から長野県の道路部局とのあいだで意見交換し「これまでの経緯、課題などについて情報共有」したといいます。長野県との意見交換は昨年も行われています。
ただ、「長野県の阿部知事とはまだ直接話ができてなくて…」と知事は話します。年初に発生した能登半島地震への対応で、それどころではなかったとのこと。最後に「夢のある構想の実現に向けて取り組んでまいりたい」と決意を示していました。
ちなみに北アルプス横断道路のルートについては、立山から大町へアルペンルートに沿って抜けていく「立山ルート」、上市から早月川を遡上して剣岳直下を抜ける「上市ルート」、朝日町から白馬岳周辺を抜ける「新川ルート」が地元自治体から主張され、まだ正式な一本化はされていません。こちらも、構想前進に向けて富山県の手腕が問われています。