日産の人気ミディアムサイズミニバン「セレナ」に、スポーティな走りのカスタムモデル「AUTECH SPORTS SPEC」が追加されました。その走りがどんなものなのか、まるも亜希子さんが試乗しました。
■上質な「セレナ AUTECH」に「走り仕様」が追加!
日産のモータースポーツ活動を担うNISMO(ニスモ)と、日産車をベースに付加価値を提供するカスタマイズモデルを製作するAUTECH(オーテック)。
2つのDNAが息づくなか、走る喜びや操る楽しさ、安心感は共通としながら、NISMOは速さと高揚感が特徴の「Sports」、AUTECHは上質さと爽快感の「Sporty」という、少し方向性の異なるモデルをリリースしています。
今回新たに登場した「セレナ AUTECH Sports Spec」は、すでに設定されているカスタムカー「セレナ AUTECH」をベースに、2007年の3代目(C25型)「セレナRider」シリーズからスタートした、チューンドミニバンの先駆け的モデルの流れを汲むもの。
2011年の4代目(C26型)、2019年の5代目(C27型)、そしてこの6代目(C28型)と、進化してきたAUTECHのノウハウが注入されているモデルです。
コンセプトは、「Premium Cruise Minivan」。エクステリアやインテリアには、AUTECH発祥の地である湘南の海と空からインスパイアされた、上質な素材と匠の技によるさまざまな表現を盛り込んでいます。
まずフロントマスクで最も主張するのは、海面のエレガントなきらめきを表現した、グリルのクロームドット加飾。
AUTECHのエンブレムも置かれ、バンパー内にあしらわれたブルーシグネチャーが昼間でも鮮やかに光って特別感を演出しています。
バンパー下辺には、波打ち際に光る白波の勢いと美しさを思わせる、メタル調フィニッシュパーツが堂々とした存在感を醸し出し、足元の専用ホイールは緻密な表面仕上げで水中へ差し込む光の躍動感を表現しています。
フロントグリルをよくよく見てみると、どれも同じではなく立体的に見えるよう大きさや角度が変えられており、計算し尽くされたデザインであることがわかります。
そしてインテリアは、海面の揺らぎや光の紋様、青空と雲のようなレイヤー感といった、丁寧な仕事を感じさせるレザーや縫製がいたるところに施されています。
フロントシートの背もたれには、ブルーの刺繍でAUTECHと入っており、落ち着いた木目のフィニッシャーと相まって、まさに上質さと爽快感が同居しているような空間。ファミリーはもちろん、ビジネスシーンにも似合いそうな雰囲気だと感じました。
そのほか使い勝手の面ではベースのセレナから大きな変更はなく、バックゲートが上下二分割で開閉できるのはセレナの大きな利点。
3列目シートのアレンジの際に引っ張るストラップが、左右2つだけブルーになっているのは、さりげなくAUTECHをアピールしているところでしょうか。
試乗はクローズドコースで行われ、一般道と同じくらいの速度をメインに、短いながらも高速道路を想定した速度の区間も走行しました。
■ベース車からわずか「20万円弱UP」ながらも加速&剛性を向上!
走り出してまず感じるのは、アクセルペダルを踏んだとおりになめらかに加速していく気持ちよさ。
セレナ AUTECH Sports Specでは「STANDARD」「ECO」「SPORT」の3つの走行モードのうち、アクセル開度に対する加速の力強さを「STANDARD」でベースのセレナ(e-POWER ハイウェイスターVグレード)の「SPORT」に近い程度まで強化。そのうえでセレナ AUTECH Sports Specの「SPORT」ではさらにレスポンスも強化されています。
その違いはアクセルを50%程度踏み込んだくらいで最も感じられるといい、確かに「STANDARD」でもミニバンの加速とは思えないほど軽やかに、余裕のあるフィーリングです。
2周目で今度は「SPORT」に切り替えてみると、加速の力強さが明らかにアップし、どこまでも伸びていくようなスルスルとした上質な加速フィールが感じられました。
また、路面のギャップを越えたりカーブを抜けていく際に感じたのは、決して加速フィールの変化だけでは得られない、ボディ剛性の高さとしなやかな足さばき。
実は、セレナ AUTECH Sports Specはシャシやパワートレインにも丁寧なチューニングが施されています。
最も注目したいのは、ヤマハ製のパフォーマンスダンパーをリアに追加していること。合わせて、クロスバーの径と板厚をアップして剛性を高め、フロントにもサスペンションメンバーステーとクロスバーを追加しています。
直進安定性の高さや、S字カーブでもボディがひと塊となって走れる一体感につながっていると感じます。
さらに、フロントのスプリングはベース車より約15%アップ、リアは約20%アップとなる専用バネレートとし、フロントのストラットとリアのショックアブソーバーの減衰力を専用チューン。
タイヤはミシュラン「Pilot Sport 5」に銘柄が変更されており、コツコツという微振動は伝わってきて引き締まった乗り味ではあるものの、大きなギャップでの揺れの収まりはよく、不快な振動を引きずらないところが好印象です。
ちなみに、電動パワーステアリングの特性も専用にチューンしているとのことですが、操舵感は軽めで切りはじめの手応えが弱く、速度を上げていくともう少し手のひらに感じる応答性があった方が、上質なスポーティさというイメージには合っているのではないかと思いました。
ただ、ミニバンということで普段からラクに運転したい人、車庫入れなど低速での軽さを求める人も多いことを考えると、これでいいのかもしれません。
そして、走り出してから終始実感したのは、室内がとても静かなこと。
従来からエンジンの稼働域や音の周波数などにこだわって、室内に不快な音が入らないようにしているセレナですが、セレナ AUTECH Sports Specではさらにロードノイズや風切り音などもよく抑えられており、静かさのレベルが最高級グレード「LUXION」並み。
これは、フロントのサイドガラスの板厚をアップしたり、どうしても構造上穴が開いてしまうダッシュボード下に、新たにインシュレーター(静音材)を追加することで静粛性を高めたといいます。
最後に2列目シートにも座って試乗してみると、乗り心地は1列目と同様に引き締まっているものの不快な揺れは抑えられ、タイトなカーブやレーンチェンジでも安心して乗っていられると感じました。声を張ることなく1列目の人と会話できる静かさで、これならロングドライブも快適なはずです。
セレナ AUTECH Sports Specは、大人の上質なスポーティを内外装でも走りでも感じることができる、本物を知る人が満足できるミニバンとなっています。
しかも、専用のチューニングや追加パーツが多いわりに、価格アップは通常のAUTECHからわずかに18万7000円アップの438万6800円にとどまるという、良心的な価格設定も大きな魅力です。
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セレナ AUTECH Sports Specは12月下旬に発売予定です。