トヨタ「ヤリスシリーズ」にはSUVの「ヤリスクロス」がラインナップされていますが、本家の「ヤリス」よりも人気を得ています。ヤリスクロスが支持される理由とは何なのでしょうか。
■なぜ一番売れてる?
2024年度上半期(4月から9月)における小型/普通車の販売ランキングを見ると、1位がトヨタ「カローラ」、2位がトヨタ「ヤリス」でした。
どちらも複数のボディをラインナップしており、なかでもヤリスは5ドアハッチバックのほかに、コンパクトSUVの「ヤリスクロス」、スポーツモデルの「GRヤリス」の3つが用意されます。
このうち、人気が最も高いのはヤリスクロスで、2024年5月までは本家のヤリス以上に販売が好調。1か月平均登録台数は、ヤリスが約6000台だったところ、ヤリスクロスは7800台に達していました。
ヤリスとヤリスクロスは、パワーユニットやプラットフォームを共通化していますが、グレードの数はヤリスのほうが多いです。
ヤリスクロスのパワーユニットは1.5リッター直列3気筒ガソリンエンジンとハイブリッドですが、ヤリスには価格の安い1リッターガソリンエンジンも設定されています。
またトランスミッションは、ヤリスクロスがATだけなのに対し、ヤリスの1.5リッターガソリンには6速MTも組み合わせています。
さらに価格も異なります。「ヤリス ハイブリッドG」は229万9000円、同グレードにあたる「ヤリスクロス ハイブリッドG」は252万4000円ですから、SUVのヤリスクロスの方が22万5000円高いです。
ヤリスクロスにはアルミホイールが標準装着されるなど、装備に違いがありますが、そこを補正しても18万円くらいはヤリスクロスの価格が上まわることでしょう。
これらの違いを踏まえると、バリエーションが豊富で価格も安いヤリスが好調に売れそうですが、実際は前述の通りヤリスクロスのほうが人気です。
一体なぜなのでしょうか。
ヤリスクロスのほうが売れている要因として、まずSUVの流行があります。
SUVはもともと、トヨタ「ランドクルーザー」のような悪路を走破できるクルマとして生まれました。
そこで比較的サイズの大きなタイヤを装着して、フロントマスクにも厚みをもたせることで、ヤリスクロスのような全長が4200mm以下のコンパクトなSUVでも外観の存在感が増し、タフな印象を与えることができます。
またボディの上側はワゴンスタイルですから、ミニバンほどではありませんが、空間効率が高くハッチバックやセダンよりも車内が広いことが特徴です。
このようにSUVは、外観のカッコ良さと広い居住空間や荷室を両立させて人気を得ました。
特にコンパクトなヤリスクロスでは、このメリットが際立ち、好調な販売に結び付いています。
ちなみに身長170cmの大人4名がヤリスに乗車した場合、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々です。
ヤリスクロスも若干広い程度ですが、実際に後席に座ると余裕を感じます。
その理由は、ヤリスクロスはヤリスに比べて、床から座面までの高さに20mmの余裕があるから。
ヤリスクロスは高い位置に座るため、膝から先が前方へ投げ出されず、足元空間が同等でも車内は広く感じます。
この点について販売店では以下のように述べています。
「後席にチャイルドシートを装着するお客様の場合、ヤリスが狭いため、ヤリスクロスを購入するケースがあります。
シートに座る位置も、ヤリスクロスはヤリスよりも適度に高いため、高齢のお客様は乗り降りがしやすく感じられます」。
ヤリスクロスは鋭角的なフロントマスクなどに特徴があり、外観のカッコ良さが注目されますが、実用性でも選ばれているようです。つまりヤリスを補う存在になっているというわけです。
■残価設定ローンのカラクリってどんなもの?
逆にヤリスに対するヤリスクロスの欠点としては、冒頭でも触れた価格の高さが挙げられますが、販売店では「今は新車を選ぶお客様の半数近くが残価設定ローンを利用します」と述べています。
そこでヤリスとヤリスクロスで残価設定ローンの見積りを比べると、損得勘定が違ってきます。
ヤリスクロス ハイブリッドG(252万4000円)の価格は、ヤリス ハイブリッドG(229万9000円)に比べて22万5000高いです。
ところが3年間の残価設定ローンを均等払いで利用すると、月々の返済額が逆転します。ヤリスの返済額は月額4万8300円ですが、ヤリスクロスは4万5900円で済み、残価設定ローンの返済額は、価格の高いヤリスクロスの方が安くなるのです。
この逆転現象が生じる理由は、残価設定ローンの残価の違いにあります。ヤリスの3年後の残価は、新車価格の41%ですが、ヤリスクロスは52%。
残価設定ローンでは、残価を除いた金額を分割返済するため、残価が高ければ月々の返済額を安く抑えられます。
それならなぜ、ヤリスクロスの残価はヤリスよりも高いのでしょうか。その理由は、ヤリスクロスの中古車市場における人気がヤリスを上まわり、高い金額で売却できるからです。
残価設定ローンの場合、契約期間満了時に残価を支払って車両を買い取ることも可能ですが、ヤリスクロスでは52%の高い残価を支払わねばなりません。
それなら車両を返却して、改めて残価の高い車種で残価設定ローンを契約する方が、ユーザーとしてはオトクに感じます。
そこがトヨタの狙いで、新車と残価設定ローンを終えた中古車の販売を活性化させるわけです。
ヤリスクロスは中古車市場で高く売却できるSUVですから、高い残価設定も可能になり、月々の返済額を減らして新車の売れ行きと中古車の入荷台数をさらに増やそうとしているのです。
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ヤリスクロスは、外観のデザイン、居住空間や荷室の広さと使い勝手、乗降性、さらに残価設定ローンの残価と返済額など、さまざまな理由に基づいてヤリスよりも好調に売られています。
特に残価設定ローンの残価と返済額は戦略的で、ヤリスクロスの高い人気は、トヨタによって作られたものといえるでしょう。