「シエンタ」や「フリード」などのコンパクトミニバンが売れています。しかし日産にはラインナップされていません。新たなモデルは出ないのでしょうか。
■売れ筋「コンパクトミニバン」 あるのはトヨタとホンダだけ…
いま、コンパクトミニバンが大人気です。
全長約4.3mのボディで3列シートとしたトヨタ「シエンタ」は、2024年4月から9月にかけての販売が5万8645台で軽を除いた乗用車ランキング第3位。同じくホンダ「フリード」も4万614台で6位につけています。
ミニバンだけをピックアップしたランキングを見ると、シエンタが1位、そしてフリードは2位。
車名別でみれば、かつてミニバン市場においてもっとも売れ筋だったトヨタ「ノア/ヴォクシー」、日産「セレナ」、そしてホンダ「ステップワゴン」などいわゆる“M(ミディアム)クラス箱型ミニバン”よりも販売台数が多いのです(ただしノアとヴォクシーを合計すると6万9383台でシエンタ超え。また「アルファード」と「ヴェルファイア」を合計すると5万5235台でシエンタに迫ります)。
いずれにせよ、昨今の日本におけるミニバンジャンルはコンパクトミニバンがけん引している…と言ったらちょっと言い過ぎかもしれませんが、コンパクトミニバン抜きに語れないのは間違いないでしょう。
そんなコンパクトミニバンのメリットは、なんといっても運転しやすさと実用性のバランスの高さでしょう。
小さなボディは狭い駐車場などでも扱いやすく、いっぽうで3列シートが可能にする多人数乗車や3列シートを畳んだ際の広い荷室など使い勝手の良さも大きな魅力です。
また、ステップワゴンやノア/ヴォクシーなどMクラス箱型ミニバンの車体が、かつてと比べて大きくなったことも、コンパクトミニバンを選ぶ人の拡大につながっていると考えられます。
現在、Mクラス箱型ミニバンのなかで5ナンバーの小型車枠に収まるのはセレナの非エアロモデル「X」「XV」のみで、ほかはすべて3ナンバー。「やはり5ナンバー枠がいい」という人もいて、コンパクトミニバンに流れているようです。
そんな人気のコンパクトミニバンですが、現在選べるのはシエンタとフリードのみ。つまりメーカーはトヨタとホンダに限られます。
日産がラインナップしてもおかしくないのですが、現時点では発売予定という情報もありません。どうして日産はコンパクトミニバンを展開しないのでしょう。
実はかつて、日産にもコンパクトミニバンと呼べるモデルがありました。それは「キューブ3(キューブ・キュービック)」です。
コンパクトハイトワゴン「キューブ」の2代目を延長して3列化したモデルで、立ち位置は「実用性を高めたコンパクトハイトワゴン」。
ただし昨今のコンパクトミニバンとは大きな違いがあり、それはリアドアもスライド式ではなくスイング式としていたことでした。
昨今のミニバンにおいてスライドドアは必須の装備なので、キューブ・キュービックと同じパッケージングだと現在では多くの販売台数を見込むことはできないでしょう。
そもそもベースとなったキューブですら、今は存在しません。しかし、主力コンパクトハッチバックの「ノート」をベースに背を高く&長くして3列シートとし、スライドドアを組み合わせた形のミニバンを出せば、欲しがる人は少なくないでしょう。
■ラインナップしない「ワケ」
いっぽう、日産の商品展開を見ると「売らない事情」が見えてきます。
日本における現在の日産のラインナップにおいて、日本専売モデルは1ジャンルに1モデルが基本。コンパクトカーであればノートだし、ミニバンといえばセレナ(「エルグランド」もありますが放置状態)だけ。
マツダでは「CX-3」から「CX-80」まで6つものモデルが用意されるSUVも、グローバルカーとして開発した「キックス」と「エクストレイル」の2車種しかありません。
理由はラインナップをスリムにしたほうが効率のいい商売ができるからであり、効率重視である意味、“割り切ったビジネス”をしているのです。
もし日産がコンパクトミニバンを開発するとしても、それは基本的に国内専用モデル(日本に加えて香港や台湾など近隣の右ハンドル国向けだけ)となるでしょう。
発売したとしても、いわゆるカニバリゼーション(共食い)としてノートやセレナの顧客を奪うのは避けられず、それはわざわざ国内専用に開発する効率を考えれば商売としてマイナス。
多少売れたとしても全体として「得るもの」が少なく、日産として投資してもそれに見合うだけのリターンがないと考えていると捉えるのが自然でしょう。だから用意しないと推測できます。
もしも今後、日産からコンパクトミニバンが登場したら、その時は日産が「国内販売車種の展開に対する考え方を変えたとき」だと思っていいでしょう。
先日、日産とホンダはEV分野などで業務提携を進めることを発表。その内容には「車両の相互補完」として互いにOEMモデルを供給することなども含まれていました。
しかし、だからといってフリードを日産へOEM供給するかといえば、そう簡単には話は進まないでしょう。
車両の相互補完とは「自社単独で生産しても儲けにならないモデルを供給してもらう。もしくは相互補完によりお互いにメリットがある」というのが基本の考えであり、大人気モデルのフリードをホンダが日産へ供給するのはホンダとして全くメリットがないからです。
現在のホンダのラインナップにはない乗用車タイプの軽自動車EVの「サクラ」をホンダへOEM供給する、といった交換条件でもあればまた違った話になるでしょう。