北米トヨタは「GR86ラリー・レガシィ・コンセプト」と名付けられたカスタムモデルを「SEMAショー」でお披露目しました。これは「次期セリカ」への布石なのでしょうか。
■「セリカGT-FOUR」オマージュの「GR86」 そこに見える想いとは
アメリカ・ラスベガスで開催される最大級のアフターパーツショー「SEMAショー」。
ここで北米トヨタは「GR86ラリー・レガシィ・コンセプト」と名付けられたカスタムモデルをお披露目しました。
このモデルの仕掛け人の1人である北米トヨタのポール・ドレシャル氏は、「ラリーのステージや人気のレーシングビデオゲームで愛好家たちが賞賛してきた伝説のラリーカーの思い出を呼び起こすのが目的」と語り、「このアイデアから、このような象徴的な車を現代風に解釈したものを作ったらどんなにクールだろうか」と言う会話が生まれ、プロジェクトがスタートしたそうです。
その伝説のラリーカーとは、1980~1990年代のWRCで数々の栄光を勝ち取った「セリカGT-FOUR」です。
このモデルは前輪駆動(FF)化された4代目セリカに追加されたフラッグシップモデルで、2.0L-DOHCターボ(3S-GTE)にベベルギア式フルタイム4WDシステムを組み合わせたトヨタ初のスポーツ4WDモデルです。
その後、5代目、6代目と進化を遂げますが、1999年に生産終了。トヨタのスポーツ4WDはここから長きに渡って空白期間となりますが、2020年にGRヤリス誕生で復活を遂げます。
そもそも、GR86は水平対向エンジンを搭載した後輪駆動(FR)スポーツですが、このモデルをベースにどのような手法を用いてセリカGT-FOURをオマージュさせたのでしょうか。
それはGRファミリーの一員である「GRカローラ」のパワートレイン/ドライブトレインとのドッキングでした。
ちなみに86+4WDの組み合わせは、これが初ではありません。
それは2014年に豊田章男氏がトミ・マキネン氏に依頼して製作されたラリートレーニング車両「GR 86X(クロス)」です。
外観は86ですが中身はほぼスバル「インプレッサWRX STI」と言うモデルで、水平対向4気筒2.0ターボ(EJ20)+シンメトリカルAWD仕様。ちなみにこのモデルがトヨタWRC復帰のキッカケを作ったと言われています。
ちなみに86Xはスバルのメカニズムを使用して4WD化されているため、コンバートは比較的楽だったと推測しますが、GR86ラリー・レガシィ・コンセプトは縦置きFRのモデルに、横置きの直列3気筒ターボ(G16E)+6速MT+ AWDシステム(GR-FOUR)をドッキング。
言葉で言うと簡単そうに思えますが、搭載にあたってシャシ側は魔改造レベルと言っていい改修が行なわれています。
中でもシャシー前半はワンオフのサブフレーム/エンジンマウントを製作。サスペンション周りも大幅に改造されています。
ちなみにGR86にG16Eエンジン搭載と言うと、スーパー耐久シリーズのST-Qクラスに参戦中の「GR86 CNFコンセプト」がありますが、こちらはエンジン縦置き化&FR駆動のままなので関連性はそれほど無さそうです。
エクステリアは白、赤、緑のカラーリング(往年のカストロールカラー!!)、フロントのランプポッド、大型のリアウイング、小型ドラミラー。
そしてスピードラインのアルミホイール+ミシュランタイヤ、マッドフラップなどを装着。基本はベースとなるGR86から大きく変わっていませんが、どことなくST205時代のセリカGT-FOURに似ているよう。
インテリアは走りに不必要なアイテムは取り外され、ロールケージやスパルコ製フルバケットシート&ステアリング、フル液晶メーター、シフトインジケーターなどを装着。ちなみにシフト周りは形状から推測するとシーケンシャルシフトでしょうか。
ちなみに製作はアメリカのチューニングメーカーである「Evasive Motorsports」と北米トヨタの共同で行なわれており、トヨタ本体は関わっていません。
そんな事から、筆者はこのクルマを製作した北米トヨタの本音は、「早くセリカを出してよ」、「出さないから、我々がテスト車両を先に作った」でしょう。
ちなみにこのクルマに張られたゼッケンは「32」。これはルーキーレーシングの水素GRカローラと同じです。ちなみに32を横にするとMNつまりモリゾウと成瀬を意味します。豊田氏は「32号車は今後もずっと開発車両の番号です」と語っていますが、その想いが込められているような気がします。
■果たして…セリカは復活するのか? 気になる「トヨタ TOP2」の発言とは?
そんな豊田章男氏は2023年3月4-5日に開催された全日本ラリー選手権第2戦「新城ラリー2023」のトークショーで「ラリーファンにとってはヤリス、カローラと来れば、やはりセリカだと思います。トヨタはこれまで様々なモデルを廃止してきた反省があります。そういう流れを佐藤新社長が引き継いでくれるのではと、淡い想いで期待をしております」語っていました。
また佐藤恒治社長の人生の夢は「セリカ復活」で、「シャシ設計時代にセリカに乗っていました。当時は『走りは足が大事』と思っていたので、スーパーストラットサスペンション(ホンダの4輪ダブルウィッシュボーン式サスの対抗するために開発された究極のストラットサスペンション)に興味があって。実際に走らせてみると、FFとは思えないハンドリングに驚き、より愛着が湧きました。私の中でこの時の体験が『セリカ愛』に繋がっています」と語るだけではなく、先日セリカGT-FOUR(ST165の前期モデル)を購入、レストアを開始しています。
さらに2023年9月8-10日に開催された全日本ラリー選手権第7戦「ラリー北海道2023」におけるトヨタイムズの生放送中にゲストとの会話の中で再びこの話が浮上しました。
ーーー
ゲスト:セリカは本当に出るんですか?
豊田氏:トヨタ自動車に聞いてくださいよ。執行の立場じゃないんだもん。
ゲスト:でも、お願いはできるじゃないですか。
ゲスト:だから、お願いしていますよ。
(中略)
豊田氏:ここがラリー会場だから言うわけじゃないですけど、デモランに招待したカンクネンさん=セリカです。
4回のチャンピオンはセリカで獲得しています。
なぜ、私がここまでカンクネンさんを使っているか、考えてみてください!共感してみてください!
ーーー
この発言からも豊田章男氏の「淡い期待」は変わっていないどころか、より強まっているように感じました。
ただ、2人の想いだけで開発GOになるほどトヨタは甘くありません。
そのため、実際に開発がスタートしているのかどうかは全く解りませんが、筆者は直近で各GRモデルの開発責任者の担当車両がシャッフルされていると言う話を聞きました。と言うことは、何らかの動きが起きているのでしょうか。
ちなみにWRCのアメリカでの開催は1988年以来行なわれていませんが、2025年のWRCカレンダーには南アメリカ・パラグアイが入っていますし、ラリーUSA(アメリカ国内ラリー選手権の公認イベント)の主催者チームが「2026年のWRC昇格を目指している」と言う報道も耳にします。
GR86ラリー・レガシィ・コンセプトが展示されるSEMAショーの開催は11月6-9日。
アメリカのクルマ好きはこのクルマを見て、何を感じるのか。そして、どのような反響があるのか。とても楽しみです。