2023年秋に発表されたミツオカ「M55コンセプト」は、1970年代的な内外装で大きな話題を呼びました。どんなところが1970年代っぽいのでしょうか。そのデザインを分析します。
■光岡期待の4ドアクラシックスポーツ「M55」 デザインの特徴は?
市販されている現行車をベースに、どこか懐かしい意匠のクルマを生み出すことで知られるミツオカ(光岡自動車)。
1968年にクルマの板金塗装および整備業でスタートした同社は、1980年代に入って50ccエンジンを積んだ超小型車「BUBU」シリーズを相次いで発表しています。
1980年代後半からは、往年の名車をレプリカしたモデルの製造をスタート。メルセデス・ベンツ「SSK」のレプリカ「BUBU クラシックSSK」、日産「シルビア」を改造してクラシックカー風に仕立てた「ラ・セード」などを続々と発表しました。
1993年には、日産「マーチ」の前後を変更して、1960年代における英国の傑作スポーツサルーンであるジャガー「Mk.II」を模した「ビュート」を発売。現在はトヨタ「ヤリス」をベースにした4代目の「ビュート ストーリー」を販売中です。
特に、マーチを元にしていた初代から3代目までは、マーチの個性でもある丸いルーフやリアドアの窓が、ジャガー Mk.IIのそれを思わせる形状をしていたこともあり、“小さなジャガーMk.II”として高い完成度を誇っていました。
そしてミツオカは、2023年2月に創業55周年を迎えました。これを記念して、同年11月に発表されたのが「M55(エム ダブルファイブ) コンセプト」です。
エクステリアやインテリアに1970年代前半風の雰囲気が強く漂うのは、ターゲットが「ミツオカと同じように55年の人生を歩んだ人たち」とされたため、といいます。
発表後の反響はとても大きく、実車展示を行った東京と富山の両ショールームにはたくさんの来場者が見学に訪れ、特設サイトでも市販化希望の声が多く寄せられました。
そこで、ミツオカはM55コンセプトの市販化を決定。市販開始は2025年内で、販売台数や価格についてはまだ未定となっています。
これほど多くの人がM55コンセプトに興味を示したのは、まさにこだわり抜いた内外装によるものでしょう。
ベースは現行型のホンダ「シビック」ですが、それとわかるのは前後ドアのみというほどに、1970年代前半のクルマらしいデザインが盛り込まれています。
横長長方形の枠内に丸目4灯式のヘッドライトや四角いグリルを置くフロントデザインは、1972年に登場した日産「スカイライン」(4代目・通称ケンメリ)や、1970年発売のダッジ「チャレンジャー」(初代)を強くイメージさせるもの。
そしてリアはシビックのテールゲートが大きく寝ていることを上手に活用して、「ファストバックスタイル」を再現しました。
1970年の初代トヨタ「セリカ」のボディバリエーションとして1973年に追加された「リフトバック」や、前述のケンメリのような「ファストバックスタイル」を彷彿とさせます。
さらにウィンドウにはランボルギーニ「ミウラ」やランチア「ストラトス」などでも見られ、当時流行したルーバーを、そして小ぶりのリアスポイラーまで装着され、より当時感をアップしています。
ブラックアウトしたリアガーニッシュにテールライトを配しているのも効果的。こちらもケンメリやセリカ リフトバックを想起させるデザインを採用しています。
内装では、シート表皮をレザーに変更し、座面・背もたれに「ハトメ加工」が施されています。
ハトメ加工とは、シートの通気性をアップするため1970年代前半にスポーツモデルの一部に見られたディティール。当時のシート表皮は黒いビニールレザーが主流でしたが、レザー+ハトメ加工により、大きく雰囲気を変えています。
ダッシュボードの変更は行われていませんが、シビックのダッシュボード自体が、初代シビックのそれに通じる水平基調でシンプルな造形のため、大きな違和感を生んでいません。
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そのいっぽう、FRのケンメリやセリカリフトバック、チャレンジャーと異なり、FFのシビックを種車(ベース車)としている関係上、フロントオーバーハングが長すぎる・グリルやヘッドライトの位置が高過ぎるなど、側面から見た際のフォルムがクラシカルではないのは致し方ないところ。
それでもリアのオーバーハングを伸ばして、ハッチバック車の印象を消す努力なども感じられ、全体的なまとまり・完成度の高さは見事。「さすがミツオカ!」という仕上がりです。
M55コンセプトが市販され、街中で見られる日を期待して待ちたいと思います。