2024年10月16日、スズキはクーペスタイルのSUV「フロンクス」を発売しました。コンパクトながら上質な内外装を特徴とする新型フロンクスの見栄えや乗り味、使い勝手について、モータージャーナリストのまるも亜希子氏がレポートします。
■360度どこから見ても“映える”新型「フロンクス」のエクステリア
スズキは2024年10月、新型「フロンクス」を発売しました。コンセプトは「扱いやすいクーペスタイルSUV」。全長4m以下というコンパクトサイズながら、上質な仕上がりを特徴としています。
そんな新型フロンクスへ公道で乗ってみた印象について紹介します。
コンパクトカーづくりではどこにも負けないと自認するスズキが、グローバルカーとして2023年からインドや中南米などで販売し、高い評価を獲得しているコンパクトSUVが新型フロンクスです。
日本の道路事情やユーザーの要望に叶うよう、走りや乗り心地などを日本でチューニングし直し、先進安全運転支援装備の搭載や、日本市場に合わせて4WDを新たに設定するという、満を持しての日本導入となりました。
大きな強みは、4mを切る全長3995mmというコンパクトサイズながら、クーペライクでスタイリッシュなデザインを実現しているところです。
機械式立体駐車場に多い高さ制限も、全高を1550mmに抑えて利用しやすくし、最小回転半径は国内コンパクトSUVクラストップとなる4.8mという小回り性能を確保。
それでいてホイールベースは2520mmと長めに取られており、市街地での日常使いを重視しつつ、時には高速道路を使ったロングドライブまでオールマイティに使えるコンパクトSUVを目指しています。
夏にクローズドコースでプロトタイプに試乗した際に、すでに良いクルマだという感想は持っていたのですが、今回はようやく一般道で試乗することができました。
遠くから見ても、くっきりとした精悍なフロントマスクやスタイリッシュなフォルムが目を惹く新型フロンクス。走り出す前からちょっと気分が上がります。
エクステリアデザインは、ブロック型の縦型3灯がシャープで特徴的なヘッドライトや、大きなインテークに灯るフォグライトがまず先進的な印象を放ちます。
ボディは陰影の緩急とコントラストの効いた強い立体感があり、SUVらしいタフさも感じさせます。
テールライトは世界的なトレンドでもある横一文字で存在感を出しながら、ストップランプはLEDのきめ細やかなデザインで統一し、上質感を演出。ルーフにはスズキ国内初採用のシャークフィンアンテナが備わります。
これは全高を抑えるためではなく純粋にデザインとしてこだわった結果だというから、相当な意気込みを感じました。
また足元は、マッチョなダイナミックさを添えるダブルフェンダーと、閉じた形状のスポークが堅牢な印象を与えるホイールが目を惹きます。
このホイールデザインもスズキ国内初だそうで、360度どこから見ても映えるエクステリアデザインとなっています。
■新型「フロンクス」の「内装の質感」や「室内の広さ」はどうなのか
そして新型フロンクスのインテリアは、ブラック×ボルドーの配色でスポーティさと上質感を演出。
このボルドーの調色や配置面積は日本市場に合わせてかなり試行錯誤して加減しており、グリーンガラスを透過した黄味のある光が影響することも考慮したとのこと。
インパネは左右からセンターにダイナミックに切り込むような、高輝度シルバーの金属フレームデザインが個性的。
がっしりとホールドする、芯の通った厚みのある造形の中に躍動感のある造形をあしらい、パールブラック塗装のサイドルーバー加飾やドア加飾とあいまって、コンパクトSUVではなかなかないシックな空間となっています。
シートは革とファブリックのコンビネーションを採用。ホールド性とサポート性、フィット性の高さにこだわったというだけあって、ほどよく包まれるような座り心地です。
座面が高すぎず、乗り降りしやすい一方でアイポイントは適度な高さになり、左右に広い視界が確保できていると感じます。
ただ身長165cmの筆者はとくに運転ポジションの取りやすさに不満はなかったのですが、180cmの編集部T氏はやや窮屈に感じ、視界の上下幅がタイトになるため、もう1ノッチほどシートを下げたいとのことでした。
センターパネルにはスマートフォンと連携できるメモリーナビゲーションが備わり、ワイヤレス充電やUSBソケット、シートヒーターもあって快適装備が充実。
収納はインパネトレーやアームレスト下のコンソールボックス、グローブボックスなどがあり、1つ1つのスペースは大きくないものの、細々とした物を整理しやすくなっています。
欲を言えば、後席のセンターアームレストやドリンクホルダー、USBがあるともっといいですが、ドアポケットにボトルホルダーがあり、シートバックポケットも備わっています。
後席の足元や頭上のスペースはやはり身長180cmの編集部T氏だと髪の毛が天井に触れるくらいとなりますが、足元のゆとりは十分で、乗り心地も不快な振動が少なく快適。
これならロングドライブでも不満は出ないのではないでしょうか。
■新型「フロンクス」の「2WD」と「4WD」の「走りの違い」とは
新型フロンクス 日本仕様のパワートレーンは、1.5リッター直列4気筒のガソリン自然吸気エンジン+マイルドハイブリッドに、6速ATを搭載。パドルシフトが装備されているところに、走りへの期待が高まります。
まずは2WDモデルから走らせると、発進時のモーターアシストで軽やかな加速フィール。キビキビとした俊敏さの中にも落ち着いた重厚感が感じられ、思い通りにコントロールしやすいと感じます。
直線での伸びやかさに加え、カーブでのしなやかな挙動はSUVとしては低重心な感覚。
2WDへの設定はスズキ初だというSPORTモードを試してみると、回転数を高めに維持してアクセルの踏み込みに対するレスポンスがアップします。
市街地ではそれほど大きな違いは感じられなかったものの、山道などで楽しさをアップしてくれそうです。
新型フロンクスは日本導入にあたり、コイルスプリングのバネ定数やショックアブソーバーの減衰力、電動パワステの操舵アシスト力などを日本の路面に合わせてチューニングし直し、タイヤもグッドイヤーと一緒に作り上げてきたというだけあって、路面の大きなギャップも一度でいなし、骨太で力強い走りと乗り心地をちょうどいいバランスで実現していると感じました。
続いて新型フロンクスの4WDモデルに乗り換えると、四輪の接地感が高まり、骨太感や重厚感もアップする印象。
乗り心地にもさらに落ち着きが出て、ロングドライブなら4WDの方が快適性が高いのではないかと感じます。
また感心したのは静粛性の高さで、エンジン音や風切り音の不快なノイズが抑えられています。
これは、遮音性を重視したダッシュパネルの板厚アップや、ダッシュサイレンサーの採用、フェンダー内に吸遮音のための隔壁を設定するといった、きめ細かな対策を施した成果。
とくに4WDではパネルからのこもり音を抑制したり、リヤ駆動系からの振動対策をするなど、専用のアイテムで静粛性・乗り心地アップを図っています。
また、4WDにはSNOWモード、ヒルディセントコントロール、グリップコントロールの3つが専用に備わっており、アウトドアレジャーや雪道での安心感も考えられています。
■「フロンクス」はもはや「小さな高級車」!?
そして新型フロンクスの日本仕様でとくに手厚く装備されているのが、数々の予防安全技術と運転支援技術です。
「SUZUKI Safety Support」では単眼カメラ+ミリ波レーダー方式で周囲の車両や歩行者、自転車やバイクなどを検知し、衝突を未然に防ぐ警告をはじめ、もし衝突しても被害を最小限に抑えるデュアルセンサーブレーキサポートIIなどを搭載。
全車速での追従走行が可能なACC(アダプティブクルーズコントロール)は停止保持機能付きとなり、ノロノロ渋滞などでも作動してくれます。
車線逸脱抑制機能やふらつき警報機能は一般道でも50km/h以上で走行中に作動し、よそ見などのうっかりミスをサポート。
標識認識機能やリアクロストラフィックアラートなどもあり、スマホで愛車のさまざまな操作や確認ができるスズキコネクトが3年間無料というのも嬉しいところです。
これまでスズキのコンパクトSUVカテゴリーには、「エスクード」や「ジムニー」(ジムニーシエラ)、「クロスビー」などがラインナップしています(エスクードは2021年に国内販売を終了)。
しかし新型フロンクスはそのどれとも被らないキャラクターながら、走りや使い勝手はスズキの最新技術の粋を結集した大盤振る舞い。
「小さくても上質感が欲しい」「快適装備に妥協したくない」という人に響きそうな、大人のためのコンパクトSUVとなっていました。