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5速MT搭載! トヨタの「“最新型”AE86」が凄かった! 伝説の「パンダトレノカラー」ד画期的“「テンロクNAエンジン」採用! 「AE86 G16E」実際の印象はいかに

くるまのニュース 2024年11月15日 15時0分

トヨタは「AE86型スプリンタートレノ」に最新エンジンを搭載した「AE86 G16E Concept」を開発しています。2024年10月から12月までは一般ユーザーにもレンタカーとして貸し出されていますが、どのようなクルマなのでしょうか。自動車研究家の山本シンヤ氏が試乗しました。

■AE86を「最新エンジン」に換装ってどういうこと?

 2023年1月に開催された「東京オートサロン」のトヨタブースでは、「クルマ好きを誰一人置いていかない」を共通テーマに様々な展示が行なわれました。
 
 その中の「愛車を守るカーボンニュートラル」をコンセプトにしたのが「AE86 H2コンセプト」と「AE86 BEVコンセプト」でした。この提案は「古いクルマも決して見捨てない」というトヨタの決意表明でもあり、クルマ好きにも高く支持されました。

 ただ、その手法は決して簡単にできるものではないのも事実です。

 筆者(自動車研究家 山本シンヤ)としては、既販車でのカーボンニュートラル実現に最も近い手段というと、おそらく「CN(カーボンニュートラル)燃料」の使用だと思っています。

 トヨタはスーパー耐久の場を活用しながら、スバル/マツダとともにこのCN燃料の開発を行なっている事は、ご存じの人も多いと思います。

 このCN燃料ですが、最新エンジンとの適合ノウハウはそれなりに構築されてきているものの、既販車の古いエンジンにそのまま使うと信頼性の面では課題がまだまだあるそうです。

 理想はガソリンと同じように使えるCN燃料ですが、そのための検証・改良は続いています。

 ちなみに、今でもスポーツカーファンから根強い人気を誇る「AE86型カローラレビン/スプリンタートレノ(レビン/トレノ)」に搭載される1.6リッター4気筒DOHCの「4A-G型」は古いエンジンに分類されます。

 実はこのエンジンは多くのトヨタ車に搭載されてきましたが、現在は修理やチューニングを行なうためのベースエンジンの入手が困難だといいます。

 AE86のチューニングの定番は、FF化された次世代のレビン/トレノであるAE92型のブロックや、最後のレビン/トレノとなったAE111型に搭載の改良型5バルブエンジンの活用が行なわれています。

 といっても、もう新品はないのでドナー車からの提供であり、そのドナー車にも限りがあります(むしろ人気のAE86よりもドナーに使われたAE92やAE111のほうが残存数は少ないかもしれない)。

 そうしたなかでトヨタは現在、ヘリテージパーツ事業を進めていますが、「4A-Gも再生産してくれればいいのに」という声が出てくるのは当然です。

 ただ、一度生産終了させたエンジンを復活させるのは、我々の想像をはるかに超えるハードルがあります。

 それは手間暇というよりもお金の問題が大きいです。恐らく、月1台レベルのビジネスのために復活させるとなると、とんでもないお金が掛かり、トヨタとしては「やりたくてもできない」が本音でしょう。

 そんな状況の中で、トヨタは今後もAE86に末永く、安心して乗ってもらうために何ができるのかを考えました。

 その一つの提案が「最新エンジンへの換装」になります。

■「GRヤリス」のエンジンに換装!? カスタムは「当時風」に

 そのエンジンとは、「GRヤリス」に搭載される“戦うエンジン”として開発された1.6リッター3気筒ターボ「G16E」がベースのNA(自然吸気)エンジンになります。

 開発陣はこのエンジンへの換装により、「故障リスク低減」「クリーンで省燃費な環境対応」「将来の代替え燃料への対応のしやすさ」の3つのメリットが生まれるといいます。

内外装は当時風のカスタムも採用

 車両の開発はGRカンパニーが担当。ベース車であるスプリンタートレノ「GTV(後期型・パンダトレノカラー)」のレストアと並行しながらエンジンの換装が行なわれています。

 G16Eエンジンはターボが取り外され、専用のエキマニ装着と制御系以外はオリジナルのまま。これはコストを抑える事に加えて「その先のチューニングはサードパーティ(社外メーカー)の役目」という考えがあるのでしょう。

 気になるスペックは84kW/160Nmと、標準搭載の4A-Gの出力とほぼ同等レベルとなっていますが、G16Eはネット値(車両搭載状態での測定値)に対してAE86は当時の測定方式であるグロス値(エンジン単体での測定値)なので出力は向上している事になります。

 このエンジンをAE86に搭載するためにエンジンマウントは新設計、サスペンションマウントはAE86用を流用しています。

 さらに4A-Gよりエンジン高が高いG16Eをエンジンルーム内に収める策としてオイルパンも新たに製作。それがゆえにオリジナルのG16Eには採用のバランスシャフトは廃止されています。

 ボンネットを開けると特徴的な形状のエキマニ以外は普通ですが、エンジン前側の空間からもわかるように4A-Gよりも車体中央寄りに搭載されています。ただ、その一方で上下方向のクリアランスはギリギリでボンネット裏側には加工の跡も。

 ちなみにエアコンも装着されています(現時点ではダイハツの軽自動車用を流用)。当然ながら、エンジン換装に伴って構造変更審査を受け、公認車検も取得しています。

 トランスミッションはAE86のオリジナル(5速MT)をそのまま使用。エンジンとの連結部となるクラッチハウジングやフライホイールも新たに製作されています。

 エクステリアはフロントリップスポイラー(前期用)/サイドステップ/リアスポイラーは当時の定番スタイルを再現。

 程よくローダウンされたサスペンションはコシミズモータースポーツ製、ホイールはWedsが復刻させたアルミホイール「RACINGFORG」に185/60R14のダンロップ「ディレッツァDZ102」を組み合わせています。

 マフラーはフジツボ製のオリジナルですが、欲をいえばサイレンサーは黒塗装のほうがさらに当時っぽいかな…と筆者は思いました。

 細かい部分になりますが、サイドのステッカーやリアのエンブレムが「TWINCAM 16」から「TWINCAM G16E」に変更されているのは、開発者の“ニクい”演出です。

 インテリアはナルディのステアリングやブリッドのバケットシート以外はほぼノーマルですが、1DINのオーディオの下にはETCとUSB充電ポートが追加されているのは時代でしょう。

 さらに細かく見ていくとアクセルペダルはGRヤリス用に変更されています。余談ですが、個人的にはリアシートが付いているAE86を久しぶりに見ました(当時は走り仕様でリアシートを取っ払うことも多かったため)。

■「乗りやすさ」に驚き! どんな印象?

 今回は都内の一般道~高速道路を中心に走行を行ないましたが、走り始めて即座に感じたことはオリジナルの4A-Gよりも「乗りやすい」の一言です。

よく曲がり、とても乗りやすいクルマに

 常用域(2000~4000rpm)は。以前試乗したことのあるいわゆる7A-G(1.8リッターの7A-FE型のブロックに4A-Gのヘッドを搭載したハイブリッドエンジン)以上にトルクが豊かで、軽量ボディも相まって街中でもすぐに5速に入ってしまうくらいです。

 高速道路で追い越しのようなシーンでも、4A-Gなら間違いなくシフトダウンするだろうといった状況でも、G16Eはシフトキープのままグイグイと加速していきます。

 まさに1.6リッターNAを感じさせないトルクバンドの広さやフレキシブルな特性に、クロスミッションならぬ「ワイドミッションが欲しい」と思ってしまったくらい(ちなみに100km/hのエンジン回転数は3500rpmくらい)。

 フレキシブルな特性ながらも、アクセルを踏んだ時のキレの良い応答や回転フィールなどはスポーツエンジンらしさを感じる一方、回転上昇に伴いパワーが盛り上がっていくフィーリング、当時の言葉を使うと「カムに乗る」のような感じはなく、エンジンの伸び感も今一つでした。

 もちろんレッドゾーンの7000rpmまでキッチリ回りますが、どちらかというと6000rpm前後でシフトアップしたほうがリズムよく走れる感じがしました。

 要するに、四の五のいわずに思わず回してみたくなってしまうような「官能性」は薄めで、現状では「スポーツツインカム」と「ハイメカツインカム」の中間といったキャラクターのように感じました。

 エンジン音は外で聞いていると3気筒を感じさせない低音の効いた乾いたサウンドですが、車内だと3気筒特有の軽めで濁音の多いサウンドで、どこか苦しそうに回っている印象も、スポーツ性をスポイルさせてしまっています。

 個人的にはこのエンジンは万能な特性ではなく、意図的に尖らせた特性にしてあげたほうがいいと思いました。

 この辺りはエンジンの内部パーツがターボ用と同じモノなので仕方ない所があるのも分かりますが、4A-Gに代わるエンジンということを考えると、少なからず手を入れる必要はあるでしょう。

 ちなみにバランサーシャフトを廃止したことでエンジンの鼓動がリアルに感じられる一方で、振動はかなり大きめですが、3500~4000rpmくらいでスッとその振動が消えると「君は本当にAE86なの?」というくらい滑らかになります。

 ただ、アイドリング時はシフトに触れると手がブルブル震えるほどのレベルで、これは古いAE86であることを考えても許容範囲とはいえません。

 個人的にはバランスシャフトはあったほうがいいと思いますが、現状で装着するとエンジンをより高い位置に積む必要があるそうで、なんとも悩ましいところ。

 フットワークはオリジナルよりもステアリングを切った時のノーズの入りが良くなった気がしました。エンジンの重量は4A-Gと同等レベルですが、搭載位置がより車体中央寄りになったことで、前後重量配分の適正化に加えて慣性モーメントが減った効果も大きいようです。

 もちろん最新のサスペンションやタイヤのサポートの相乗効果もあるでしょうが、結果としてより素直、より自然に曲がれるようになったような気がします。

 乗り心地はAE86としては相当高いレベルで、少ないストロークながらも路面入力を上手に吸収するいなしの効いたセットで、個人的には足の動きに関してはしなやかさすら感じたほどです。

 さて、今回試乗したG16E NAエンジンは、現状では4A-Gと同じとはいえませんが、シッカリと育てると大きく化けそうなユニットに感じました。

 AE86がメーカー、チューナー、ユーザーの三位一体で成長してきたように、このエンジンもそのように成長してほしいと願っています。そのためには任せる所はサードパーティに任せ、トヨタはトヨタでしかできない所をサポートしてあげる事が重要だと考えます。

 現在市販化も検討中で、「価格はどうする?」「どのように提供すればいい?」「誰が換装するのか?」などを各方面で調査をしているそうです。

 恐らくキット販売が基本でしょうが、例えばGRガレージが対応するなら車体側のリフレッシュとセットで提供など、チューナーとディーラーがカニバらないような策も考える必要もあるでしょう。

 もちろん、オリジナル派にとっては「そんなの邪道」という人もいると思います。それはそれでいいと思いますが、21世紀に不安なく、安心してAE86に乗るための手段として「このような選択肢もあるよ」ということは是非とも知っておいてほしいです。

※ ※ ※

 ちなみに、「試してみないとわからない」という皆さんのために、サブスクを提供するKINTOのコンテンツの1つである旧車コミュニティ「Vintage Club by KINTO」の企画で、このG16E NAエンジン搭載のAE86に期間限定(現在は受付終了)でレンタル試乗できる機会が用意されました。

 事前の抽選で当選された方のみとなりますが、一般の方にも試してもらえるチャンスが展開されています。

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