首都高にときどき現れるトヨタ「アルファード」があります。このアルファードにはなにやら物々しい装置がたくさんついており、異様な雰囲気を醸し出しています。一体どのようなクルマなのでしょうか。
■役割は首都高の「ドクターイエロー」的存在!?
首都高を走っていると、屋根や前後バンパーに一般的なクルマでは見たことがないような装置を取り付けたトヨタ「アルファード」を見掛けることがあります。
そのアルファードのリアゲートには大きく「測定作業中」の文字が…。果たしてこのクルマはどのようなものなのでしょう。保有する首都高技術に聞いてみました。
非常に物々しいアルファードの正体は、「ウェーブドクター(WaveDoctor)」というものだそう。首都高技術の公式サイトでも「照度・電界強度測定」車両として紹介されています。
何やら難しそうなクルマですが、どのような役割があり、何を測定しているのでしょうか。同社の担当者は以下のように説明してくれました。
「首都高グループが目指す、安全で快適な走行空間の提供を実現するため、道路照明の明るさや、提供情報や料金収受設備の電波状態を道路規制をせず、走行しながら測定することにより、機能水準を一定のサービスレベルに維持する役目を担っています」
では、さまざまな設備があるなか、車体に取り付けた機器で具体的に何を測定しているのでしょう。
「具体例としては、明かり部・トンネル部の道路照明設備、ETC2.0やトンネルラジオ再放送などの提供情報設備、ETCなどの料金徴収設備、管理用無線、ローカル5Gなどの維持管理設備、トンネルの気温・湿度・路面温度が挙げられます」(首都高技術担当者)
簡単にいうと、道路を走行しながら通行に必要な照明の状態を確認したり、ETCが正しく通信できるかの調査、首都高に多いトンネルの環境も測定する車両ということ。また、それらの作業に自動化の技術を使い、首都高を安心して走行できるようにしているわけです。
そんなウェーブドクターですが、導入されたのは2016年12月と比較的最近です。設備の点検やトンネル環境の確認というと、すでにこうした車両が存在していてもおかしくはなさそうですが、なぜ新たに導入されたのでしょうか。
「首都高にLED道路照明やETC2.0などの新しい設備の導入に伴い、効率的な維持管理を行うために開発し、導入しました。
開発にあたっては、首都高特有の維持管理環境や測定精度、今後の人手不足に対応すべく以下の機能を考慮しています。
具体的には、『交通規制を必要としない走行測定機能』『視覚や聴覚によらない定量的なデータ測定機能』『RPA(ロボット導入による業務自動化)を用いた自動測定機能』『照度、電界強度、トンネル環境など同時測定機能』の4つです」(首都高技術担当者)
首都高をさらに便利に、快適に利用できるようにするために、日々新しい機器が導入される反面、こうした設備をしっかりとメンテナンスしていく必要があります。
しかし、近年の人手不足に加えて、24時間365日通行量が多いという首都高の特性もあるため、自動化技術を用い、効率よく測定するという大きな役割があるようです。
■なぜ「アルファード」? 「高級ミニバン」が必要な意外な理由とは?
現在運用されているウェーブドクターは2代目。2024年9月から使われていますが、先代も現行もアルファードで共通しています。
しかし、こうしたメンテナンス作業や測定車両では、商用バンなどやトラックが用いられることが多いですが、なぜアルファードなのでしょう。そこには理由があるといいます。
「アルファードを選んだ理由は、測定機器を車両に搭載するための条件が標準装備で備わっていたことが挙げられます。
具体的には、多くの測定機器が搭載可能な車内空間があること、測定機器に必要なAC電源(1500W)が標準装備してあること、振動の低減対策が取られているので、測定機用の特別な振動対策が不要なことが理由です」(首都高技術担当者)
機器を搭載するために広い車内はもちろん必要ですが、その電源は一般的なコンセントからの電気と同じAC(交流)電源。しかし、商用車ではコンセントが備わっていないことが多く、あっても100W程度と電力が足りないこともしばしば。
その点、アルファード(グレードはハイブリッド車のZ)では1500Wのコンセントが標準で備わり、さらに高級ミニバンであることから乗り心地もよく、測定機器に与える振動も少ないのです。
気になる架装費用は「約600万円(測定機器と測定システム費は含まず)」。日本国内にこの1台しかなく、正真正銘激レア車両なのです。
そんな激レアなウェーブドクター、一般の人が見られるチャンスは限られています。とはいえ稼働している時間帯は決まっていて、運が良ければ見られるかもしれません。
「基本的には夜間(19時~26時頃)に稼働しています。年間約100日をかけて首都高速道路の全線・全車線を測定するため、(測定の様子は)非公開ではありませんが、決まった区間を毎日走行しているというわけではありません」(首都高技術担当者)
測定以外の場に現れることもあるようで、学生向けのインターンシップや年に1度開催される、首都高で実際に使われている車両や技術を紹介する、首都高速道路(株)主催の「点検・補修デモ」でも紹介しているといいます。
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普段、何気なく走っている首都高。日々、安全かつ快適に首都高を利用できているのは、ウェーブドクターとそれを運用する関係者の方たちの尽力があってこそ、なのです。
ウェーブドクターと似たような役割を担っている車両で有名なのが、“新幹線のお医者さん”ともいえる「ドクターイエロー」です。
JR東海が保有する車両は2025年1月に、そして2027年にはJR西日本が保有するドクターイエローが、老朽化のために引退するとアナウンスされています。
このドクターイエローは「見ると幸運が訪れる」と言われ、引退までのカウントダウンがはじまっているだけに、偶然見られたときの喜びは鉄道ファンでなくても格別のものがあります。
そのいっぽう、ウェーブドクターもまた1台しか存在しない「レア車」ですが、最新型のアルファードへと更新され、今後もナイトドライブのタイミングで運が良ければ首都高で会えるかもしれません。
もし偶然、ウェーブドクターを見掛けたら、その日はさらにラッキーなことがありそうです。