運転席の周辺についていながら、ほとんど押すことのない「クルマが踊っている」マークのスイッチ。もしも押したら、どうなってしまうのでしょうか。
■クルマが踊ってるスイッチは何のため?
クルマの運転席周辺には、「車体が踊っている」ようなマークのスイッチがついています。多くの場合、その車体の下に波線が描かれ、「OFF」と大きく記されています。
しかし、滅多に使わないので、触ってもいいのかなと思う人もいるかもしれません。いったい、何のためについているのでしょうか。もしも押したらどうなるのでしょうか。
このスイッチは、クルマの「横滑り防止装置」を手動でコントロールするためのものです。
横滑り防止装置とは、急ハンドルを切ったり、不意に滑りやすい道に進入したり、クルマの動きが乱れたときに安定性を高めるシステムです。
センサーが横滑りを検知して自動でエンジンやブレーキを制御し、外への膨らみやスピンなどを防止しています。
英語名のElectronic Stability Controlを略してESCとも表しますが、各メーカーでも独自の名称を使っています。
たとえば、ホンダは「VSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)」、トヨタは「VSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)」、日産やスバルでは「VDC(ビークル・ダイナミクス・コントロール)」と呼んでいます。
なお、横滑り防止装置は現在日本で販売される全ての乗用車に搭載されています。
新型生産車については2012年10月1月から、継続生産車は2014年10月1日から義務化された安全装置なのです。
そんな横滑り防止装置は安全運転に不可欠なので、エアコンのON/OFFなどとは違い、クルマの走行中は常に稼働しています。
つまり、スイッチに記された「OFF」は、今動いている横滑り防止装置を働かせないようにする、という意味なのです。スイッチを長押しすることで、横滑り防止機能を解除できます。
しかし、大切な機能なのに、なぜ解除できるようになっているのでしょうか。
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スイッチはいつ使うのか
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横滑り防止装置には事故を未然に防ぐ役割がありますが、運転中にはその機能を必要としない場面もあります。
具体的な場面について、とある新車系販売店の担当者は次のように話します。
「雪道やぬかるんだ泥道など、タイヤが上手く回転しない時です。
装置をオンにしたままではタイヤの回転が抑えられて出力が出ず、抜け出せなくなってしまいます。
ただ、あくまで非常用のものであるため、通常の走行でオフにすると坂道などで滑ってしまい極めて危険です。
くれぐれも非常時以外は装置をオンにしたままにしてください」
横滑り防止装置は、タイヤの空転を感知すると自動的にエンジンの出力を抑えるといった、最も適切な状態でパワーを路面へ伝える機能があります。
しかし、雪道や大雨のぬかるみにはまった状況などでは、こうした機能がかえって邪魔になることがあります。
ある程度タイヤを空転させないと脱出できないにもかかわらず、空転を感知するために、アクセルを踏んでもエンジンの回転数が上がらずに駆動力が得られなくなってしまうのです。
このような場合は機能を解除しなければならず、そのために横滑り防止装置を「OFF」にできるスイッチがついているというわけです。
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なお、雪道にスタックしてしまった場合は、横滑り防止装置をオフにし、タイヤで雪を踏み固めると脱出できるようです。
タイヤは多少空転しますが、ゆっくりアクセルを踏み、振り子の要領で小さく前進と後進をくり返すと、大きく動くようになるといいます。
やがて足元の雪が固まってくると、グリップ力がもどり勢いで脱出できます。このとき、タイヤの下にフロアマットや脱出用マットなどを敷くと、よりグリップ力が高まるようです。
ただ、手に負えないと感じる場合は、無理せずロードサービスに依頼するのも大切でしょう。
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また、日頃から横滑り防止機能をオンにしていても、乱れたクルマの動きを100パーセント制御できるものでもありません。安全のためには無理な運転を避けることも大切でしょう。