光岡自動車(ミツオカ)は2024年11月21日、新型「M55 Zero Edition」 (エムダブルファイブ ゼロエディション)を初公開しました。「ケンメリ」に代表される1970年代テイストのレトロなデザインなどに注目が集まっていますが、どのような経緯で開発されたのでしょうか。
■ちょっと意外!? 「M55(エムダブルファイブ)」のベース車とは
光岡自動車(以下、ミツオカ)の創業55周年記念を飾るコンセプトカー「M55(エムダブルファイブ)」が、2024年11月21日に正式発表され、抽選申し込みが開始されました。
セダン不遇の時代に敢えて挑んだセダン調のデザインは、米国のマッスルカーに強い影響を受けた1970年代の国産GTをモチーフとしており、幅広い世代のクルマ好きから注目されています。
エムダブルファイブの開発が始まった2021年秋のこと。昨今のSUVブームもあり、同年6月に発売した新型SUV「バディ」の納期が、既に2、3年待ちとなるほどの絶好調となっていたタイミングでした。
新車開発に携わる渡部 稔 執行役員 ミツオカ事業部 営業企画本部長は、次のように振り返ります。
「当時、次の新型車を検討しなければならない時期でしたが、バディの増産対応に追われる日々。その成功もあるので、次もSUVにすべきかと悩んでいました。
しかし街中に溢れるSUVを眺めているうちに、子育てを終えた夫婦は、SUVを持て余すのではないかという疑問が頭を過りました。
そこで光岡自動車の創業55周年記念車ということもあり、同じ時代を生きてきた人たちに、本当にワクワクするクルマを提供したいと考えたことが、M55誕生の原点となりました」
ただ、バディ以上の成功は生めないかもしれないという気持ちがあったそう。その想いが逆に全く異なるコンセプトへの挑戦への後押しになったというから、いかに大胆な決断だったかがうかがえます。
そのコンセプトこそが、子供から大人までが車に夢中となった時代に生まれ、勢いのあった米国車のテイストが凝縮された国産GTカーの再来だったのです。
さらに渡部 企画本部長は、「当時の欧米車への憧れを込めて、車名の呼び名もエムダブルファイブとしました」と車名に込められた思いも教えてくれました。
こうしたエムダブルファイブのコンセプトに最適なクルマとして白羽の矢がたったのが、開発真っただ中の2021年9月にフルモデルチェンジモデルを受けたばかりの11代目ホンダ「シビック」でした。
シビックは5ドアハッチバックですが、国産車では珍しい水平基調のスタイリングでありシルエットが美しいこと、そしてリアを伸ばすことで、セダン風にも見せられることが決め手となりました。
ベース車となったシビックは、2024年9月にマイナーチェンジを受けていますが、M55のベースはなんとマイナーチェンジ前の1.5リッターVTECターボ「LX」(6速MT)のクリスタルブラックパール塗装車が採用されています。
現行型があるのに、なぜマイナーチェンジ前のモデルがベースなのかという疑問がよぎります。
そこには昨今の新車供給問題が影響していました。
■SUV「バディ」の成功と反省を受け「M55」では体制を変更
ミツオカの生産体制は全てオーダー制のため、顧客からの注文を受けてからベース車を入手するのが基本です。
しかし昨今の新車供給不足から、バディのベースであるトヨタ「RAV4」の新車を入手するのに多くの時間が生じたり、ベース車の納期が注文段階では不明だったりと、顧客への納期に大きく影響してしまったことを反省。
そこでミツオカの年間生産台数のうち、エムダブルファイブに割り当てる台数を100台と決め、先にベース車を入手することにしたそうです。
そのためミツオカの新車保管場所には現在、ブラックのシビックが100台ずらりと顔を揃えているといいます。
それがエムダブルファイブ第一弾の「ゼロエディション」となります。
なおエムダブルファイブは新車ですが、初回車検は2年となります。それはベース車をメーカーから直接仕入れるのではなく、新車ディーラーから調達しているため、契約上購入時に一度は新車登録を行う必要があったといいます。
つまり、一般的には「登録済み未使用車」と呼ばれるクルマがベースとなるわけです。
もちろん、新車登録から顧客納車まではミツオカのもとで管理されているので、クオリティは新車と変わりません。
保証に関しても新車同等の内容がミツオカによって付帯されるので、安心して購入することができます。
ベース車のシビックLXとの違いについてですが、機能面の装備はベース車に準ずるもので、先進安全運転支援機能の「ホンダセンシング」も同じ内容となっています。
安全装備では、歩行者との衝突時に頭部などへの衝撃を緩和するポップアップフードシステムは取り外されていますが、テストにより安全性に問題ないことが確認されています。
ヘッドライトは、汎用品の自動車用LEDヘッドライトを用いた4灯式に変更。リアのテールランプは、なんとオリジナルデザインとなっています。
このテールランプについてはまだ開発段階であるため、量産車とは少しデザインが異なるようなので、その点も注目です。
前後マスクが変更されているため、ボンネットは専用品に。テールゲートには、ルーバーや延長テールなどが追加されているため、重量も増加。もちろん、テールゲートダンパーは強化品になっているので、開閉動作もしっかりしています。
またルーバーは固定式なので、リヤワイパーがレス仕様となるのもベース車と異なる点です。
■カタログモデル化を目指す「エムダブルファイブ」が直面する「課題」とは
エムダブルファイブ ゼロエディションのボディカラーは、コンセプトカー同様にガンメタリック塗装が施されていますが、青味が強められた専用の「レジェンダリーグレーメタリック」という新色へと色味が変更されています。
ちなみにベース車の色が黒なのは、エンジンルームなど普段は見えない部分を塗装せずとも、黒ならば違和感がないためだといいます。
第一弾となる「ゼロエディション」は、当時の男性のクルマ好きに愛されたGTクーペの世界観を強く訴えるべく、シブいガンメタ外装に淡く美しいブルー内装で、スポーツシート風デザインのフルレザー表皮、6速MTのみという仕様となっています。
ただエムダブルファイブは、今後も生産継続するカタログモデルとすることを目指しており、「e:HEV(イーエイチイーブイ)」を搭載するハイブリッド仕様や、VTECターボエンジン・CVT仕様車などの設定も検討中。その際には、ボディカラーや内装などのオーダーもできるようになるようです。
一方でベース車となるシビックは今、マイナーチェンジ後のモデルで唯一のMT車である「RS」グレードが大人気に。多くの受注を受けているため、2026年以降モデルのMT車の動向も不透明な部分があります。
MTにこだわりたいならば、ゼロエディションの購入を検討するのがベターかもしれません。
最後に808.5万円(消費税込み)という価格ですが、ベースのシビック LXの価格からすると2倍を超えるものとなっています。率直に高すぎるという意見もあるでしょう。
その点については、今後の継続的な生産を行った予定総生産台数を考慮して決めたものと、渡部 営業企画部長は明かします。
つまり、限定100台のみでは大赤字なのです。
ミツオカのクルマ作りは、内外装の専用部品の開発製造に加え、塗装や製造工程がハンドメイドで行われています。
そして年間生産台数も限られるため、売れても増産体制にも限度があります。
つまりこだわりのユーザーのための少量生産のメーカーであり、その価値を支援するという意味も考慮すれば、決して高いとはいえないのです。