2024年10月には日本で有効な国際免許証を持たない外国人2名にそれぞれカートを貸して公道で運転させたとして、東京都大田区のカート事業者が書類送検されました。どのような動きがあったのでしょうか。
■保安基準を満たさない違法公道レンタルカートが野放し状態?
外国人観光客に人気の公道レンタルカートでトラブルが多発しています。
2024年10月には日本で有効な国際免許証を持たない外国人2名にそれぞれカートを貸して公道で運転させたとして、東京都大田区のカート事業者が書類送検されました。
「無免許運転」は発覚していないだけで、ほかにも多数ありますが、運転免許の問題だけではなく交通事故も多発しています。
警視庁によると2024年8月までに東京都内だけでカートが絡む人身事故が7件、物損事故が18件発生しているとのこと。
また、免許や事故の問題に加えて、もう一つ、重大な事実がこのたび明らかになりました。
全国31ある公道カート事業者のうち、19事業者で公道カートの保安基準、シートベルト未装着など数々の違法行為が行われていることが判明したのです。
この件を調査した「訪日外国人安全運転支援機構」代表理事の松島隆太郎氏に「事業者の実態」についての詳細を聞いてみました。
―― どのような方法で、違法である確認をされましたか?
当機構での調査は、公式サイトに掲載されている写真からの確認、利用者のSNS投稿などからの確認に加えて、現地調査もあわせて行なっております。
事業者から調査の依頼を受けて実施する場合もあります。
公道レンタルカートで使用されている車両には、そもそも公道を走行できる保安基準を満たしていない違法車両や、2018年に改正された追加の保安基準を満たしていない車体が多数確認されています。
―― 具体的にはどのような違反でしょうか?
2018年に追加された公道レンタルカートの保安基準には、周りの車から見えにくい点を改善するための構造物を設置する必要があります。
「被視認性向上部品」と名付けられており、その名の通り、周囲を走る車両等から公道カートの存在をわかりやすくするための部品です。
「地上から1m以上の高さにおいて前後・左右から見て一定の面積(幅25cm×長さ30cm以上)が視認できる構造となっていること」が必須なのですが、この「一定の面積」の部分はメッシュ構造のように透けて見える状態では基準不適合となります。
メッシュ構造では光が透けてしまい十分な面積もないとされ、基準を満たしません。
また、公道レンタルカートにはシートベルトの設置義務(年式により2点または3点式)がありますが、法令では許可されていないレース用の4点式を設置したり、シートベルトは設置されていても実際に利用者にベルトを装着させずに運転させているケースも数多く確認されています。
「夜間被視認性向上」として、尾灯についても「尾灯を構造物の最大高さ付近に取り付けること」が追加されていますが、電池式の「自転車用」の尾灯風のライトを取り付けて対応しているかのように偽装している例も確認されています。
―― それらが保安基準不適合であることは、事業者はわかっていないのですか?
当然、事業者は法律に定められる保安基準に不適合で違法状態だということはわかっているはずです。
当機構から違法である旨や違反している箇所の改善をお願いしても、現場の警察官から取り締まりを受けていないことなどを理由に「法令に適合している」「特別に猶予された」と勝手に解釈して違法状態のケースも多くあります。
また、公道レンタルカート事業者の中には保安基準が改正される以前から営業している会社もあり、中には古い基準のカートで営業を続けている場合もあります。
違反を指摘されたり、警察から取締りを受けたことがなかったりすると、「まあ、このままでいいか」と勝手に自己判断して営業を続けているケースもあるでしょう。
なお、公道カートの改正保安基準適用は、新車も使用過程車も適用時期は2020年4月1日からとなっていますが、3点式ベルトや頭部後傾抑止装置(ヘッドレスト)など後付けが困難な部品については使用過程車への適用はなし、とされています。
■11月20日、観光庁から旅行業者団体に通達が!
公道レンタルカートをめぐる諸問題は多々存在しており、警察や国交省、東京都議会、渋谷区議会なども対策強化に動き始めています。
2024年2月7日、警視庁は(当時の)全公道カート事業者を呼び出し、運用方法などについて要請を行いました。※これ以降に開業した公道カート事業者は呼び出し対象外です。
そして同年9月25日には東京都議会において違法な運営を続ける一部の公道カート事業者が問題視され、東京都として、警察や国土交通省と連携して違法な事業者に対して立入検査を含めた対策をとっていく旨の答弁がありました。
現在、関東運輸局、東京運輸支局、及び警視庁による立入検査が各事業者に対して行われています。(公道レンタルカート事業は許認可事業ではないため、関東運輸局には事業停止を命ずる権限がないため、法令違反である通知及び指導を行うにとどまります)
直近では11月20日に旅行会社を所管する観光庁から国内の旅行業者団体(JATA・ANTA)に対して通達が出されました。
違法な運営を続ける公道レンタルカート事業者の商品を販売しているのは、事業者自身だけではなく、半数以上が海外OTA(オンライントラベルエージェント)と呼ばれる海外系旅行会社であることも多いのです。
旅行者自身は公道レンタルカートの車両が保安基準に適合しているか、日本の道路交通法がどうなっているのかをよく理解しないままに、旅行会社からカートツアーを予約し、カートを運転している現状があります。
そこで、観光庁より旅行会社業界団体に対して、一部の違法な公道レンタルカート事業者によるツアーの斡旋は、旅行業法違反に該当し処分対象になる旨の通達が出されたのです。
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「公道レンタルカートへの対応について」
公道レンタルカート事業者が旅行者に貸し出している車両の一部において、日本の道路を走行するための安全基準である道路運送車両の保安基準を満たしていないことが確認されました。
このような、道路運送車両の保安基準に適合しない公道レンタルカートを運行の用に供する行為は、道路運送車両法第 44 条(原動機付自転車の構造及び装置)の規定に違反するものです。
加えて、当該車両の装置が道路運送車両の保安基準に適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある場合、当該車両の使用者その他当該車両の装置の整備について責任を有する者又は運転者が、当該車両を運転させ、又は運転する行為は道路交通法第62条(整備不良車両の運転の禁止)の規定にも違反し罰則の対象となります。
また、旅行業者がこうした車両の貸出しをあっせんすること又は便宜を供与することは、旅行業法第13条(禁止行為)第3項第2号に該当し、同法第19条第1項の規定に基づく行政処分の対象となります。
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なお、違法カートを運転して事故が起きた場合、保険が適用されない問題も出てきます。
保安基準を満たさない公道レンタルカートは整備不良の不正改造車とみなされ、暴走族車両などと同様の扱いになります。
歩行者や他の交通の乗員に対しては被害者保護の観点から保険が適用されるとみられますが、違法レンタルカートを運転していたドライバー自身への「人身傷害保険」は補償されないことがほとんどとのこと。
保安基準の改正や、警察や国土交通省などの介入で、以前の状況と比較すると法的な枠組みが固まりつつあります。
しかし、コロナ前に比べると事業者数は倍増して2024年11月末現在で39事業者となっており、公道レンタルカート事業の新規参入者はコンプライアンス意識の欠如がみられることから、法的な枠組みからはみ出た事業者が沢山増えてしまっているのも事実です。
新規参入の半数以上は外国人による運営とみられますが、公道レンタルカート事業はレンタカーとは異なり、国の許認可は必要なく事業展開が可能です。
法令遵守や安全対策への意識が低い違法な事業者が規制されるような許認可制の導入を検討して欲しいものです。