トヨタの北米法人が、新型「カローラ」に新グレード「FX スペシャルエディション」を設定しました。ネーミングの由来であり、かつて日本でも親しまれた「カローラFX」とは、どのようなクルマだったのでしょうか。
■現在のカローラの基本を作った「2BOX上級生」
1980年代から1990年代にかけて、世界各地で親しまれた「カローラFX」が北米で復活します。
今のカローラにもつながる源流であるカローラFXとは、どんなモデルだったのでしょうか。
トヨタの北米法人は、新型「カローラ」(2025年型モデル)に「FX スペシャルエディション」という新グレードを追加しました。
この「FX スペシャルエディション」は北米仕様のカローラの「SE」グレードをベースに、ローダウンサスペンションや専用チューニングのパワーステアリングなどを装備したスポーティなモデルです。
外装も専用リアスポイラーや18インチブラックアルミホイール、各部のブラックアウト化によって精悍に仕上げています。
「FX」というグレード名は、1980年代から1990年代に日本や北米のカローラに設定された「カローラFX」というモデルからきています。北米においては、特に4気筒DOHCスポーツツインカムの名機「4A-G型」エンジンを搭載した「FX16」が今なお人気です。
カローラFXは1984年にデビュー。前年の1983年にモデルチェンジし、初代以来4代続いたエンジン縦置き・FRレイアウトから、スペース効率に優れるエンジン横置き・FFレイアウトへ転換した5代目カローラ「E80系」シリーズに追加される形で発売されました。
FXの最大の特徴は、現在の「カローラスポーツ」のルーツとも言える2ボックスの「ハッチバック」タイプであったこと。
これは1980年のフルモデルチェンジ以来、若年層を中心に爆発的ヒットを飛ばしていたマツダ「ファミリア」へと対抗するためのものでした。
またこれにより、E80系カローラシリーズはFFのセダンとリフトバック、同じくFFでハッチバックのFX、そしてFRのまま残留したスポーツクーペの「レビン」まで揃えた豪華な布陣に。ニーズの変化を見極めながら、幅広い層にアピールしていきました。
初代FXは、キャッチコピーの「ちょっと気どった2BOX上級生」のフレーズどおり、質感やスペックの高さをアピールしました。
最上級モデルの「GT」には、“ハチロク”の愛称で今も親しまれるカローラレビン「AE86」と同じ4A-G型エンジンを搭載。
サスペンションは操縦安定性に優れる前後ストラット式4輪独立懸架を採用し、当時はまだ珍しかった前後フルカラーバンパーなどもオプション設定していました。
この初代FXはレースにも参戦。人気を博していた「グループA」こと全日本ツーリングカー選手権では、身内の「レビン」「トレノ」やホンダ「シビック」などと競い、総合優勝も経験しています。
1987年にはカローラの6代目へのフルモデルチェンジに合わせ、2代目FXが登場。全体的にはキープコンセプトながら、アピールポイントであった上質感に磨きをかけました。
そして1992年、7代目カローラシリーズの登場から再び1年遅れて、3代目FXが発売となります。ボディは3ドアのみ、エンジンも160psを叩き出す5バルブの新しい4A-G型をはじめ、1.6リッターのツインカムで揃えてスポーツ色をいっそう強めました。
しかし、ヨーロッパやアメリカなどでは比較的好調だったものの、FXシリーズは3世代通して日本での販売に苦戦しました。1995年、8代目カローラへの移行を機に、FXは日本のカローラのカタログから姿を消してしまったのです。
FX自体は志半ばでの消滅となりましたが、ハッチバックモデルの系譜はのちに9代目カローラ「ランクス」「アレックス」や後継の「オーリス」、現行カローラスポーツなどへと受け継がれていきました。
大衆車のスタンダードがFRセダンから変化していった1980年代から1990年代。時代のうねりの中、カローラFXは40年も先の未来である、現在のカローラの姿を先取りしていたのかもしれません。
そうして再び、「FX スペシャルエディション」として現代によみがえったカローラFXですが、このモデルがどれほど人気となるのか、期待したいところです。