雪が積もるときにクルマのワイパーは立てておくのがいいのでしょうか。それとも立てないほうがいいのでしょうか。
■100年変わらぬ「ワイパーの仕組み」とは
今年も都心部で雪が積もる時期になりました。積雪予報が出たとき、駐車中のクルマのワイパーは「立てておく」もしくは「立てておかない」どちらが正解なのでしょうか。
結論をお伝えする前に、まずはワイパーの仕組みや構造を知っておいたほうが、積雪時のワイパーはどうすればいいのかの理解を深めるとともに、何かとカーライフの役に立ちます。
ワイパーは、ゴムを窓ガラスに押しつけて水滴を拭うという至極簡単な仕組みで、雨天時などの視界を確保する装置です。
このゴムを押し付けてウインドウの水滴を除去するという仕組みは、ワイパーが発明された1903年から現在まで変わっていません。
ワイパーを発明したのは、米国のメアリー・アンダーソンという女性実業家だといいます。
真冬のニューヨークで乗っていた路面電車の運転士が、フロントウインドウについた水滴が視界の邪魔となって運転に苦慮していたのを見て、ゴムブレードをバネが付いたアームでガラスに押しつけ、曲面でも水滴が除去できる仕組みを考案し、特許を取得したそうです。
その後の1910年代、現在もワイパーの製造を行う米国トリコ社の当時の社長が、雨の日にクルマを運転して事故を起こしたことをきっかけに手動式ワイパーを開発。1917年にワイパーブレードの生産を開始しました。
世界初の手動式ワイパーを標準装備したのは1922年、米国GM社の「キャデラック」でした。
この時期に米国のトライ・コンチネンタル社が、エンジンの負圧を利用した真空式ワイパーを開発しますが、エンジン回転数によってワイパーの速度が変化したり、場合によっては止まったりする欠点がありました。
そして1926年、ドイツのBOSCH社が電動式ワイパーを開発し、これが現在のワイパーの基本的な構造となりました。
電動式ワイパーは、モーターとワイパーアームをリンクアームで繋いで、モーターの回転をワイパーの往復運動に変換させ、ワイパーアームに取り付けられたワイパーブレード、ワイパーゴムをウインドウに適切な力で押さえつけるという構造になっています。
この「モーター」→「リンクアーム」→「ワイパーアーム」と動力を伝達し「ワイパーブレード」に取り付けられた「ワイパーゴム」で水滴を除去するという基本的な仕組みや構造は約100年変わっていません。
これに代わる仕組みも何ひとつ実用化されていないのが現実です。
■積雪時にはワイパーを立てる?それとも立てない!?
筆者(佐藤 亨)が真冬の北海道に行ったとき、駐車場に停めていたクルマのワイパーのほとんどは「立っていません」でした。
一部でワイパーを立てているクルマを見ましたが、そのナンバープレートは「わ」「れ」ナンバーのレンタカーばかりで、地元住民ではない様子でした。
雪が積もるときにワイパーを立てておくと、雪の重みでワイパーアームが曲がったり、折れたりする危険性があります。
ワイパーアームは基本的に金属製ですが、重量に耐えられる負荷は考慮されていません。特に、ワイパーアームとワイパーブレードの接続部は構造的に弱くなり、雪の重みで折れやすくなるポイントです。
こういった理由で「積雪時にはワイパーを立てない」が正解となります。
ではなぜ「積雪時にワイパーを立てよ」という話になったのでしょうか?
その理由は、夜間にウインドウに付着した雪、みぞれなどが朝方には凍結し、ワイパーとウインドウを固着させてしまうからです。
ワイパーがウインドウに凍り付いた状態でワイパースイッチをオンにすると、リンクアームやモーターを破損させてしまう恐れがあります。
ただ、ワイパーがウインドウに凍り付く状況では、フロントウインドウ全体が凍結して視界確保ができず、運転できない状態となっていることがほとんどです。
そんなときは、市販の「解凍スプレー」を使うか、手指消毒用アルコールを濃度30%程度に希釈(アルコール3:水1)してウインドウに霧吹きなどで吹きかければ、さっと氷が溶けていきます。
決してやってはいけないのは、「お湯をかける」ことです。
急激な温度差でフロントウインドウが割れたり、ヒビが入ったりする可能性大です。
安全に素早くウインドウの氷を解凍することができるという点も「積雪時にワイパーを立てない」の理由のひとつです。