乗用車の開発・生産・販売から撤退して久しい「いすゞ自動車(いすゞ)」。いっぽう海外では、かっこいい3列シートSUVが人気を博しています。果たして日本市場での発売はあるのでしょうか。
■国内導入すれば「ランクル250」の好敵手になる!?
いすゞ自動車(以下、いすゞ)は2024年6月、3列・7人乗りのSUV「MU-X(ミューエックス)」の大幅改良モデルを発表しました。
タイやオーストラリア、南アフリカ、中東、中米などで販売されるグローバルモデルですが、新型MU-Xの国内導入の可能性はあるのでしょうか。
1993年、いすゞが乗用車の開発・生産から撤退してから30年が経過しました。1993年以降もしばらく続いたOEM供給車の販売も2002年に終了し、すでに14年が経過しています。
いすゞといえば、1980年代後半に「街の遊撃手」のキャッチコピーを打ち、優雅かつ大胆なTVCMで大ヒットした「ジェミニ」や、エレガントな2ドアモデル「117クーペ」など、数々の名車をこの世に誕生させていました。
現在の国内市場では、大型バス・トラックを中心とした商用車のみの販売となって久しいですが、海外では乗用モデルを自社生産し、販売が続いています。
なかでも、アジアを中心に新興国向けのPPV(Pick up Passenger Vehicle)と呼ばれるSUVのMU-Xをタイで生産し人気を集めていることは、日本ではあまり知られていません。
MU-Xは世界60以上の国や地域で販売しており、たとえばタイでは2023年に同セグメントにおいて過去最高となる34.6%の販売シェアを獲得しているといいます。
ベースとなっているのは、こちらも日本未発売の1トン積みピックアップトラック「D-MAX」(3代目)。
いすゞのピックアップトラックは、タイのいすゞ工場において1974年に生産を開始して以来、およそ半世紀で累計500万台を生産する重要な主力モデルとなっています。
MU-Xは、そんなD-MAXをベースに2013年にデビュー。現行型は2020年にフルモデルチェンジを受けた2代目で、前述の通り2024年6月にマイナーチェンジを受けました。
先代同様の3列シート・7人乗りで、全長4860mm×全幅1885mm×全高1875mmとトヨタ「ランドクルーザー250」に近いボディサイズとなっています。
タイ仕様のパワートレインは、最高出力140kW(190PS)、最大トルク450N・mを発生する3.0リッターディーゼルに6ATを組み合わせる4WDとなっています。
2024年6月のマイナーチェンジ時に最上級グレード「RS」を新設定。大きな開口部を持つフロントグリルをはじめ随所にブラックアウト処理が施されました。
また新世代ステレオカメラを採用し、いくつかの先進安全技術が追加されて安全性能も世界基準となっています。
タイにおける車両価格は、118万4000バーツ(約516万円)から175万9000バーツ(約767万円)です。
現在国内の本格ラージクラスSUVはトヨタおよびレクサスの独占市場となっており、MU-Xを日本市場に導入すれば人気を集めるのではないでしょうか。
■いすゞのディーラー網をふたたび使う可能性とは!?
いすゞは国内の乗用車販売から完全撤退していますが、ディーラー網はまだ残っています。
2023年7月18日に日本ソフト販売が集計し発表したカーディーラー数ランキングでは、いすゞは15位の285店舗となっています。
この数は22位のレクサスの212店舗(中古車ディーラー除く)よりも多く、13位のメルセデス・ベンツの327店舗、14位のフォルクスワーゲンの311店舗に次ぐ数となっています。
これだけのディーラー網があれば販売も可能なように思えます。しかしなぜ日本でMU-Xを売らないのでしょうか。
いすゞが乗用車の販売再開をしない理由について、メーカーは特に公式コメントを出していません。
ではなぜいすゞが乗用車市場から撤退したのかを振り返ってみましょう。
冒頭でお伝えした1985年から90年に販売されていたジェミニはセールス好調でしたが、1990年にフルモデルチェンジを受けた3代目ジェミニ以降は、他のモデルも含め販売台数を減らしていきます。
いすゞの経営において、乗用車の開発、生産は事業全体の足を引っ張る格好となり、1990年代に徐々に自社生産車種を減らし、ホンダや日産、スバルからのOEM供給を受けて新車販売を続けていました。
このOEM販売を続けていた背景に、大型バス、トラックなどの大口顧客が乗用車も購入していたことがあり、いすゞブランドの乗用車をラインナップから消すわけにはいかなかったようです。
OEM車の販売なら、経営への足を引っ張ることはないかと思うかもしれませんが、ディーラー側の負担は大きなものとなります。
販売に係る人員、整備にかかる人員や設備は、ある程度まとまった台数がないと会社として回っていきません。
メーカーとディーラーは経営が切り離されているものの、どのメーカーもディーラーを守らねばなりません。
MU-Xを日本の法規制に対応させるだけなら、そう大きな問題にはならないでしょう。
しかしまたディーラー側に発売、整備といった受け入れ体制を作るには相当なコストがかかるはずで、そのコストを回収するには、ラージサイズSUV1車種だけでは困難になるのは明白でしょう。
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いすゞは1980年代から1990年代にかけ、販売網拡大の一環として、輸入車ディーラーのヤナセでいすゞ車の販売をおこなっていました。
ワイルドでタフでかっこいいMU-Xもタイからの輸入車です。そう考えれば、同様に取り扱うことも可能かもしれません。
D-MAXとあわせ、そうした方法での導入も真剣に検討して欲しいものです。