東京モーターショー2019でトヨタが出展した未来のモビリティを提案したコンセプトモデル「e-RACER」とは、どのようなクルマだったのでしょうか。
■トヨタの「2人乗りスポーツカー」!
日本最大の自動車見本市「東京モーターショー」は、1954年(昭和29年)が初回の開催年でした。隆盛を極めた日本のモータリゼーションとともに開催毎に入場者数は増加し、1991年(平成3年)にピークの約202万人を記録しました。
しかし、それ以降は減少が続き、2017年開催の第45回東京モーターショーは約77万人に落ち込みました。その次の2019年10月に開催された第46回「東京モーターショー」は、130万人を超える入場者数を記録し、大成功を収めました。
この第46回で「東京モーターショー」の名称は最後となり、次の開催は「ジャパン モビリティショー」の名称へと変わりました。
最後の「東京モーターショー2019」では、数々の大注目を集めるコンセプトカーが展示されました。
その中でも、トヨタが出展した「e-RACER」は未来のモビリティを予言するかのようなコンセプトで高い注目を集めていました。
e-RACERのボディサイズは、全長3340mm×全幅1620mm×全高970mmという超小型、全幅は5ナンバーサイズのコンパクトカーと同じくらいのサイズに、現在の軽自動車とほぼ同じ全長に収まる小型の1人乗りスポーツカーとなっていました。
パワートレーンは車名が示すとおりのBEV(電気自動車)ですが、スペックの詳細は明らかにされていませんでした。
またその姿は、フォーミュラマシンのような姿をしたオープンカーでしたが、曲線が多用されたボディにより、かわいらしいスタイルとなっていました。
また、シート上部には「GR」のロゴが配されているのも印象的でした。
■トヨタ「e-RACER」は未来の”愛馬”
e-RACERはトヨタが提唱する「Fun to Drive」を表現する未来のモビリティとして作られました。
トヨタが東京モーターショー2019の出展概要を発表した際に公開したe-RACERの動画では、その未来のカーライフスタイルが提案されていました。
動画冒頭では、朝7時のアラームが鳴って起きた1人の女性が、”スマート洗面台ミラー”を操作しながら歯磨きをしています。
タッチ式ミラーディスプレイで、e-RACERを選択し、足回りのセッティングをすると、次にシートのカラーリングを選択、続いてレーシングスーツを選びます。すると歯磨き中の女性の身体をセンシングし、3Dプリンターでレーシングスーツがプリントアウトされるライブ映像がディスプレイに映し出されます。
女性が支度を終えてガレージに向かい、e-RACERに乗りドライビンググローブを装着、車両に装備してあるウェアラブルスマートグラスをかけて、操縦桿タイプのステアリングを握ると、ものの3秒ほどで時速100キロまでに到達します。
スマートグラスの左側には4つの走行シチュエーションの仮想選択ボタンがあり、最上部の「REAL」が選ばれた状態から走行がはじまりますが、自動で「CLASSIC GRAND PRIX」のVR走行モードに変わり、道路脇の観客の声援を受けながら森を掛け抜けます。
続いてシーンはイルカが泳ぐ海中へ切り替わり、さらに未来都市のシーンへと切り替わっていきます。最後は、REALモードに戻り、高層ビルが立ち並ぶアイランドへ架かる橋を走行するところで映像が終わります。
この未来的な映像は、AIを活用したVRで走行シーンを拡張したもので、トヨタはe-RACERを「個人所有する未来のモビリティ」だとしています。
当時のトヨタ社長 豊田章男氏は、「将来クルマは所有するものではなくなる」ことを否定し、「人はよりパーソナルなモビリティを所有」し「自分の意思の通りに移動したい。もっと早く、もっと遠くへ行きたいという人間の欲求は普遍的なものだと思う」旨を語っていました。
さらに、米国では1500万頭の馬が自動車に置き換わったものの競走馬が残ったという歴史を引き合いに出し、「馬を操る楽しさは、クルマに勝るとも劣らず、馬は障害物を自分で回避する。人は馬と心を通わせることができる」旨を語り、馬は乗る人にとってかけがえのない存在であることと、またAIの進化によってクルマも人と心を通わせる存在になることに強い期待を寄せ、「未来のクルマはまた、馬のような存在になると思う。e-RACERのような個人所有するモビリティは『愛馬』となる」旨を付け加えました。
AIとVRがクルマに実装される未来は、そう遠くないという期待が持てるコンセプトモデルでした。