メルセデス・ベンツは、2024年10月23日、「G クラス」の電気自動車 「G 580 with EQ Technology Edition1」を発表しました。Gクラス史上初のEVとなる同車ですが、実際の実力はどのようなものなのでしょうか。工藤貴宏氏がレポートします。
■“EV”のGクラスは実際どう?
かつてのような「EV(電気自動車)まっしぐら」から「そんなに急には市場が対応できないでしょう」へと流れが変わりつつある昨今の電気自動車事情。
とはいえ変化が緩やかになるとはいえ長い目で見れば自動車がどんどん脱エンジンとしてEVになっていくことは間違いなく、世界中の自動車メーカーがEVのラインナップを増やしているのは皆さんご存じのとおりです。
なかでも、(国策で進めている中国勢のほか)欧州の自動車メーカーも積極路線。メルセデス・ベンツもそのひとつで、多くのEVを市販しています。
同社のEVは「EV専用ボディ」と「ガソリン車と共用のボディ」の2タイプに分けることができますが、今回紹介する「G580 with EQ Technology」は後者。
あまりの人気に長い長い納車待ちが発生しているSUV「Gクラス」のBEV(バッテリー式EV)モデルです。
市販前に2024年秋の「ジャパン・モビリティショー」に参考出品していた時は、メルセデス・ベンツの電動車を意味する「EQ」に車名の「Gクラス」ドッキングした「EQG」という名前でしたが、発売時にはネーミングが変更されました。
実は同社の量産EVにおいて「EQ」が車名につかないのはこの「G580」がはじめて。どうやらEVであることよりも“Gクラスのバリエーションのひとつ”という印象を強めたいようです。
そんなG580で面白いのは、エコまっしぐらではないこと。どうやら「EVなおだからエコならそれでいい!」なんていう考えは開発陣には微塵もなかったようです。
具体的に言えば「パワーとトルクはGクラスの中で最強」「悪路走破性はGクラスで最高」とメチャメチャ性能にこだわっている。
「とりあえずEVにすればいいんでしょ!」なんていう気軽な気持ちではなく、「どうせやるなら頂点を目指す!」という強い意志がひしひしと伝わってくるってもの。そう、目指したのは「Gクラスのてっぺん」なのです。
たとえば動力性能。メルセデス・ベンツ広報スタッフの言葉を借りれば「モーターひとつあたりのパワーは『A180』のエンジンと同じ、トルクは『C200』のエンジンと同じで、それが4つついている」。つまりこのG580は、A180が4台分のパワーとC200が4台分のトルクを持つGクラスというわけ。凄すぎませんか。
最新Gクラスのエンジン仕様における最高峰モデルは排気量4.0リッターのV型8気筒ツインターボエンジンを積む「AMGメルセデス G63」でそのスペックは最高出力585ps・最大トルク850Nm。対してG580は前後左右4つのモーター合計で587psと1164Nm。つまり「G63超え」ってこと。そんな数字を見せつけられて驚くなというほうが無理じゃないですか。
最高出力の“わずか2psの差”に執念じみたものをひしひしと感じるのは、きっと筆者(工藤貴宏)だけではないことでしょう。誰ですか「ランボルギーニ・カウンタックとフェラーリ512BBの戦いみたい!」なんて言っているのは。
とはいえ、“EVが凄いのは動力性能だけでしょ?“なんて思うかもしれませんが、それだけではありません。というか、開発チームはそれだけでは満足しませんでした。例えば悪路性能。
オフローダーにとっては欠かせない要素であるアプローチアングル&デパーチャーアングルはそれぞれ31.2度と30.5度のディーゼルエンジンを積む「G450d」に対して、G580は32度と30.7度でリード。
そもそも最低地上高がG450dの230mmに対して250mmと上回っているし、渡河性能(走行可能な水深)も700mmに対して850mmとまさかの150mm増し。エンジン車以上の悪路走破性で究極のオフローダーを目指しているのです。
実際に険しいオフロードコースでも試乗してみましたが、試乗車は標準装着となるオンロード重視のタイヤを履いていたにも関わらず都会派SUVなら入ろうとも思えないような極悪路を粛々と前へ前へ進んでいく抜群の走破性は見事なもの。
そして注目すべきは悪路での微妙なアクセルワークのしやすさ、エンジンよりもモーターのほうがリニアで扱いやすいってことです。これは驚きでした。率直に言って、エンジン車よりも悪路走行がスムーズなのも目から鱗でした。
車体下部へのバッテリー搭載によって低重心化が図られているためか、ガソリン車よりも安心感を感じられたのもきっと気のせいではないでしょう。
また、右のタイヤを左のタイヤを逆方向へ回転させることで、戦車などクローラー付きの車両のようにその場で360度回転できる「G-TURN」というエンジン車がどう逆立ちしても真似できない斬新な機能も装着。
シリーズの頂点に立つ悪路走破性に加え、EVならではのスペシャルな機能も備えたGクラスというわけです。
ちなみに車体下でラダーフレームに挟まれて搭載するバッテリーは、悪路走行に備えてアンダープロテクターを装着。厚さ26mmのカーボン製で「10トンの負荷がかかっても大丈夫」という念の入れようです。
いっぽうで、そんなG580のオンロードでの走りをひとことでいうと、速くてスムーズで快適。3トンを超える重量級のボディとはいえ、G63を超える驚異的なパワーとトルクによって加速の勢いはまるで高性能スポーツカーのようです。
しかし排気音やエンジンのフィーリングも含めたワイルドさはG63とはまったく比較にならないレベルで洗練されていて、ガソリン車とはベツモノ。
荒々しさは微塵もありません。加速性能は“怒涛”だけど、フィーリングは“静”なのです。アクセルを踏み込むと、ゴツい見た目のGクラスがカタパルトで押し出されるようにスムーズかつ怒涛の加速力で前へ前へ飛び出していく様子はこれまで体験したことがないもので、まるでタイムマシンがワープする時のようでした(実際にはタイムマシンに乗ったことがないのでイメージですが、そのくらいエンジン車とは異なっていて独特ということです)。
また、高速域の安定感も抜群。このあたりは速度無制限の高速道路があって高速巡航性能が求められる国で生まれたクルマという感じですね。ただし、高速巡航するとバッテリーがどんどん減っていくのでロングツアラーにはあまり向かないかもです(WLTCモード計測による一充電航続距離は530km)。
最後に、そんなG580で筆者(工藤貴宏氏)が一番驚いたことをお伝えしましょう。それは価格。初期モデルとなる「G 580 with EQ Technology Edition 1」の価格は2635万円。確かにクルマとしては高額です。
いっぽうで、エンジン車の最高峰であるG63の初期モデル「メルセデスAMG G 63 ローンチエディション」の価格は3080万円。
G580はパワーやトルクといったスペックだけでなく悪路走破性までエンジン車の頂点であるG63を超えています。それにも関わらず、G63よりも安いのです。
普通はEVのほうがエンジン車よりも高いのですが、逆転現象が起きているというわけ。そう考えると、“GクラスのEV”ってコスパ最強ではないでしょうか。
オンロードでは速くて快適。オフロードではエンジン車以上の走破性。そしてコスパも抜群。(エンジンの味を求めたり片道200kmを超えるような長距離移動さえ考えなければ)最高のGクラスと言っていい気がします。港区での移動に最適ですね。