2012年開催の「ペブルビーチ コンクールデレガンス」で日産の高級ブランドインフィニティが初披露したコンセプトモデル「インフィニティ エマージe」とはどんなクルマだったのでしょうか。
■日産のシリーズハイブリッド「e-POWER」の原点
自動車メーカーは、次世代の革新的な技術を斬新なデザインで表現するコンセプトモデルを、世界各国で開催されるモーターショーや自動車イベントで披露しています。
その中には、夢のような新技術が現在の自動車技術の中核となるものも少なくありません。
日産の高級ブランドインフィニティが2012年に開催された「ペブルビーチ コンクールデレガンス」で初披露した「INFINITY Emarg-e(以下、エマージe)」は、現在の日産のパワートレインの主軸となったハイブリッド技術「e-POWER」の原点となった技術が採用されていました。
ペブルビーチ コンクールデレガンスは、アメリカ有数の名門コースで全米オープンも開催される「ペブルビーチ・ゴルフリンクス」の年1日の休業日に、18番ホールで開催される自動車コンクールで、選考委員会が厳選した約200台の超高級車、クラシックカーから、「優雅さ」「美しさ」を基準にクルマを選定する展示会です。
エマージeは、全長4462.8mm×全幅1953.3mm×全高1219.2mm、ホイールベース2623mmのボディサイズをもった流麗で複雑な複数の曲線で構成された非常に美しい2ドアクーペでした。
しかし、その姿はそれまでのインフィニティの量産車、コンセプトモデルともに見られなかったロングノーズを持たない、ブランド初のミッドシップレイアウトのスポーツカーでした。
エマージeの最大のトピックは、斬新で美しいデザインではなく、パワートレインにありました。
そのパワーユニットは、直列3気筒1.2リッターの発電用エンジンに、2つのモーターを組み合わせたハイブリッドシステムで後輪を駆動するものでした。モーターは後輪各1輪に対して1つのモーターを駆動し、システム総合最高出力は402馬力、最大トルク1001N・mというハイパワーを発生、時速60マイル(97km)加速4秒というスペックを誇っています。
このハイブリッドシステムには、リチウムイオンバッテリーを搭載して電気のみで約48km走行できる航続距離をもっており、最初はバッテリーから供給される電気でEV走行をし、バッテリーがなくなるとエンジンが始動し充電を開始するというレンジエクステンダーEVの方式がとられていました。
環境性能は、発電用エンジンが作動している状態でも、約3,000マイル(約4800km)をCO2排出量55g/kmで走破できる高効率を誇っています。
この開発の背景には、イギリス政府関連機関「Technology Strategy board(技術戦略委員会)」の意向があったようで、英国では市街地でまったくCO2を排出しないクルマを求めていたことがあり、日産はそれをインフィニティブランドで応じたものでした。
エマージeは量産化に至らず、レンジエクステンダーEVも、その後のクルマのパワートレインの主流にはなりませんでしたが、日産は、発電用エンジンと駆動用モーターを組み合わせたシリーズハイブリッド「e-POWER」の開発に成功、2016年に量産コンパクトカー「ノート」に初搭載、現在では第2世代が日産のパワートレインの主力のひとつを担っています。
現在、当たり前となっているクルマの技術は、10年、20年以上前から長い年月をかけて開発されてきたものです。折に触れてかつてのコンセプトモデルに着目すれば、非常に興味深い自動車の技術の歴史を発見することができます。