トヨタは「東京オートサロン2025」(2025年1月10日~12日開催)において「GRヤリスMコンセプト」を発表しました。このクルマはどのようなモデルで何を指し示すものなのでしょうか。解説します。
■“ミッドシップ”ヤリスは何を示す?
トヨタは「東京オートサロン2025」(2025年1月10日~12日開催)において新たな「GRヤリスMコンセプト」を発表しました。
このコンセプトカーは「GRヤリス」をベースにしたもので、今年のスーパー耐久シリーズに参戦することが発表されています。
つまり、ただのアイデアだけのモックアップではなく、実際に走れるレーシングカーです。
また、フロントに積まれていた純正の1.6リッター・エンジンは降ろされ、別に、新たに開発中の「G20E」という2リッター4気筒ターボのエンジンが、運転席の後ろ、後輪車軸より前に搭載されています。
つまりミッドシップというレイアウト。しかも駆動方式は4WDになるというのです。
現車を見れば、巨大な前後フェンダーに、鉄板を張り合わせたようなエンジン・カバーと迫力は満点。リアフェンダーをよくよく見れば、けっこうデコボコしており、1点ものの手作り感がひしひしと伝わってきます。
G20Eというエンジンは、2024年6月にトヨタ/スバル/マツダの3社共同で発表した「三社三様」の新エンジン開発のうちのひとつとなります。
ちなみに、現在のGRヤリスに搭載される1.6リッター・ターボ・エンジンの最高出力は224kW(304PS)もありますが、それが2リッターに拡大されるわけですから、当然、パワーは300馬力以上となることでしょう。まさにモンスターマシンと言っていい内容です。
では、そんなモンスターマシンが、なぜ生まれ、そして、どのようなアウトプットを目指しているのでしょうか。
そのヒントは、同じ東京オートサロン2025会場でトヨタが行ったトークショーにありました。そのタイトルは「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」で、1月11日10時から開催されたものです。
そのトークショーにはトヨタと関わりの深いレーシングドライバーなどが登壇しましたが、その中にGRヤリスのチーフエンジニアであり、GRヤリスMコンセプトの開発を担当するトヨタの齋藤尚彦氏も含まれていたのです。
トークショーによると、ミッドシップレイアウトの4WDであるGRヤリスMコンセプトの誕生には、トヨタ会長である豊田章男氏が深く関わっていたとか。
豊田氏は、GRヤリスが2020年にデビューした後、プロモーションやレース、ラリーなどの現場で、そのハンドルを握る機会を多く持ちました。
すると、そこで「神に祈るしかない時間」があると気づいたというのです。コンマ数秒という短い時間でしたが、操作してもクルマが反応しない時間があり、それを「神に祈るしかない」と表現したのです。
そこで生まれたアイデアがGRヤリスの「ミッドシップ化」でした。スーパー耐久のレース中のディスカッションで生まれ、あっという間に試作車が作られたというのです。
そして2023年2月のフィンランドにて、豊田氏やチームメイトのレーシングドライバーがミッドシップ化された1.6リッター・エンジンのGRヤリス試作車を試乗。その走りは「トラクションが素晴らしい」「回頭性が良く、アンダーがでない」「ドライバーのすぐ後ろにエンジンがあり、エンジンの存在を強く感じる」であったとか。総論として「楽しくてしょうがないクルマであった」というのです。
では、そんな楽しいGRヤリスMコンセプトは、どんなゴールを目指しているのでしょうか。
トークショー内では、登壇したレーシングドライバーからは「市販化してほしいと思います」という声が上がります。それに対して、GRヤリスのチーフエンジニア齋藤尚彦氏は「一緒に頑張ってください」と答えています。
さらに、齋藤氏は、サーキット走行でのメンテナンス性だけでなく、全日本ラリー選手権において「サービスパークでこのクルマをメンテナンスするなら、どういうスペースで、どんな準備が必要なのかをヒヤリングしている」とも発言しています。
つまり、GRヤリスMコンセプトの市販化に向けて、齋藤氏は動いていることを示唆したのです。
もちろん、実際に販売するかどうかは、開発の現場レベルでは決定できません。ビジネスとして成立するかどうか、トヨタ経営陣による検討の末に結論が出る話です。
さらに言えば、GRヤリスの派生とは限りません。ここで開発したMRシャシーとエンジンを使って別のクルマを仕立てるという可能性もあります。
たとえば、かつてあった同じミッドシップのスポーツカー「MR-S」「MR2」の後継になるかもしれません。また、北米で大人気であり、世界ラリー選手権でも大活躍した「セリカ(セリカ GT-FOUR)」が2リッター&ミッドシップ4WDとして復活することも考えられます。
とはいえ、レーシングドライバーが「楽しくて仕方ない」と口を揃えるクルマが、現在進行形で開発されているのは事実。人をワクワクさせるクルマが、トヨタから登場することを期待しましょう。