ホンダが2003年開催の東京モーターショーで出展したコンセプトモデル「HSC」とはどんなクルマだったのでしょうか。
■300馬力の「HSC」
未来のモビリティの扉を開くコンセプトモデルは、ときにはクルマの常識を超えるイノベーションも生まれます。大胆なデザインと美しいディテールが最先端技術と融合し、未来のモビリティの可能性を具現化しています。
2003年10月に開催された「第37回東京モーターショー」でホンダが出展したコンセプト・スポーツカー「HSC」は非常に大きな反響を呼びました。
HSCは、あらゆるドライバーにマシンを操る喜びとスポーツカーの楽しさを提供することを目指して誕生しました。そのコンセプトは、究極の高性能と誰もが扱える自在性の融合です。高度なテクニックがなくても、自分の思い通りに操り、走る楽しさを存分に味わえる純粋なスポーツカーをホンダは追求しました。
そのために採用されたのが、ロングホイールベースとショートオーバーハングのパッケージングです。これにより、安定感と軽快な操縦性を両立しています。
ボディサイズは、全長4250mm×全幅1900mm×全高1140mm、ホイールベース2660mmとなっていました。
ホンダは「人の心に響く、走りの感動を追求したデザイン」と伝え、そのスタイルは、高いパフォーマンスを最大限に引き出すため、最適なフォルムを採用し、見る人、触れる人の心を動かす官能的なデザインを施しました。
ボディ上部はエモーショナルな躍動感を際立たせ、下部は走行性能を感じさせるシャープなラインで仕上げています。
リアエンドでは、高輝度LEDを採用した立体的なデザインの3Dリアコンビネーションランプを採用して優れた被視認性を実現。さらにCCDリアビューカメラを装備して後方の状況をディスプレイに鮮明に映し出し、ドライバーに迅速で正確な情報を提供する安全性も向上させています。
また、「スポーツマインドを駆り立てる」と表現されたインテリアでは、コックピットにインパネ骨格をイメージした軽量で剛性感のあるデザインを採用。ブラックやブルーのカーボン、カラードアルミ、結晶アルミ、ヌバック革などの異素材を巧みに組み合わせ、新次元のピュアスポーツにふさわしいインテリアを実現していました。
さらに、運転中の集中力を高める、レイヤードインフォメーションメーターを採用しています。これは2つの情報を、遠近感を持たせて1つのメーターで表示して、ドライバーが外界とメーター間で焦点距離を移動させることなく、迅速に情報を認識できるように設計されたものでした。
加えて、優れた操作性とスポーティな走行性能を実現するダイヤル式シフトとパドルシフトを採用しています。ダイヤル式シフトはシフトチェンジを簡単に行え、パドルシフトによって、究極のスポーツドライビングを楽しみ、操る喜びも堪能することができるようにされていました。
パワートレインには、高効率で300馬力以上を発揮する軽量・コンパクトなV型6気筒エンジンをミッドシップ・横置きにレイアウトし、優れた運動性能と操縦性を実現させています。
横置きV型6気筒エンジンは、初代NSX(1990〜2005年)にも採用されていました。HSCの披露が初代NSXのモデル末期であることから、2代目NSXを示唆しているのではないかと、当時大きな反響を呼びました。
ホンダはHSCについて、人が心から楽しんで操れるスポーツカーでありながら、磨き抜かれた性能も備え、「S500」から受け継ぐスポーツDNAを次世代へと進化させた、新しい次元のピュアスポーツカーを提案したと伝えていました。
最も顕著にHSCの影響を受けた市販車は、2016年に登場した2代目「NSX」となるでしょう。初代とHSCが横置きだったエンジンは縦置きに変更されましたが、2代目NSXは、HSCが掲げたスポーツカーの理想を具現化したものと言えます。
特に、エモーショナルで未来的な、シャープで流れるようなデザインと先進的なハイブリッドシステムがもたらす高い走行性能は、HSCのコンセプトをしっかりと反映しています。
また、2015年に登場した軽オープンスポーツカー「S660」もミッドシップレイアウトを採用し、HSCが提言した誰もが楽しめるスポーツカーのコンセプトが体現されていると言えるでしょう。