スバル新型「クロストレックe-BOXER(S:HEV)」は、ストロングハイブリッドを搭載することで燃費が向上することに加えて、大容量燃料タンクを採用することで1回の給油で航続距離1000km以上走れると言います。実際に試してみました。
■スバル新型「クロストレックe-BOXER(S:HEV)」で1000km走れるのか
2024年12月5日に正式発表したスバル新型「クロストレックe-BOXER(S:HEV)」。
このモデルは、ストロングハイブリッドによる燃費向上に加えて、大容量燃料タンクを採用することで1回の給油で航続距離1000km以上走れると言います。
それは本当なのか。実際に走ってみました。
スバルの独自技術のひとつである「水平対向エンジン」は、低重心、コンパクト、パワフルさ、独特なエンジンフィールなどは高く評価されてきましたが、他社と比べて燃費となると評価はイマイチだったのも否めません。
もちろん世代ごとに改善は行なわれてきましたが、そこに一矢を報いるのが、クロストレックに追加された「e-BOXERストロングハイブリッド(S:HEV)」です。
そのシステムを簡単におさらいすると、水平対向4気筒エンジン(2.5L)に発電用/駆動用のモーターとリチウムバッテリーを組み合わせたシリーズ・パラレル式」のハイブリッドシステムです。
仕組みは資本提携先のトヨタのハイブリッドシステム(THS II)を活用していますが、スバル車独自の構造(縦置き、メカニカル4WD)に合わせてハード/ソフト共にスバル独自の設計・開発です。
技術トップの藤貫哲郎氏は「環境性能の事を考えると水平対向は決して有利ではありません。しかし、スバルがスバルであるためには水平対向は絶やしてはならない。そんな想いがこのS:HEVのシステムに込められています」と語っています。
注目の燃費性能はWLTCモードで「18.9km/L」と発表されており、燃料タンクは63Lなので、1タンクでの航続距離は「1190.7km」と1000km超えが可能です。
しかし、スバル車はカタログ燃費と実燃費に乖離あると言われる事が多く「本当に1000km走れるの?」と懐疑的な人もいるでしょう。
「それなら、試してみましょう」と、実際に筆者(山本シンヤ)が1タンクで1000km走れるかを1泊2日で実証してきました。
筆者はメディア対抗の燃費バトルで何度か優勝経験があります。確かに燃費を向上させるための “技”は存在します。ただ、それだと非現実で実証にならないので、今回は自ら下記のようなルールを設けました。
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1・交通の流れに合わせて走る
2・エアコンは常時ON
3・2~3時間おきに休憩を行なう
4・夜間は走行しない(宿泊する)
5・アイサイトXは有効活用する
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ルートはどうしたかというと、今回は1泊2日の限られた日程で1000kmを目指すため、筆者の自宅(静岡県東部地域)から西に向かい瀬戸大橋を通って香川県坂出市に一泊、二日目はそこから高松道で淡路島を経由して東に戻るルートを選択。
これならば復路の途中、恐らく愛知県内で1000kmを超えるはずです。高速道路がメインですが、その中でもできるだけバラエティに富んだ道をセレクトしました。
2024年12月某日、朝9時に編集部YとWカメラマンが筆者の自宅(静岡県東部地区)に到着。
近くのガソリンスタンドで燃料を満タンにして静かな挑戦がスタート。まずは一般道から新東名のインターを目指します。
3人の大人に加えて1泊2日の荷物は燃費テストには不利な条件ですが、S:HEVは全く問題なし。
高出力モーターのアシストと2.5Lエンジンの連携により、発進時や巡行→加速時の応答性の良さや瞬発力の高さと言った、“過渡領域”のパフォーマンスはあの「WRX S4」を上回るレベルと言っていいです。
新東名で一路西に向かいます。燃費の良い速度域を探るために100~120km/hで走ってみます。
驚きなのは100km/hよりも110~120km/hのほうが燃費の値が良く、間燃費計は常に25~30km/hくらいで巡行可能です。この辺りは速度が上がると燃費が悪化する傾向のトヨタTHSIIとは異なる点でした。
エンジンは排気量アップ(2.5L)とアトキンソンサイクル化により燃費率の良い所(燃費の目玉)が大きく拡大されたS:HEV専用のFB25ですが、恐らくエンジンが最も効率がいい回転数が110~120km/hと考えられます(メーターはパワーメーター表示のみなのでその時の回転数は解らず)。
更にTHSII特有の加速感とエンジン回転数がリンクしない現象はトヨタ車以上に抑えられ、フィーリング面ではTHSIIと言うよりもリニアトロニックに近いと思います。つまり、常用域では違和感は“ほぼ”無しと言っていいです。
S:HEV化に伴って吸音・遮音性能も見直されていますが、その効果は絶大。クロストレックはオールシーズンタイヤ装着ですがロードノイズは抑えられている上に、エンジン音も体感的には遠くで回っているイメージでほぼ気にならず。
室内の会話明瞭度の高さは兄貴分を超えるレベル。だからこそ、「レヴォーグ」などに採用されるハーマンカードン製のプレミアムオーディオをOPでもいいから設定して欲しかったなと。
燃費の良い速度域が解ったら、ここからはアイサイトXを活用します。瞬間燃費計でチェックすると筆者がアクセル操作を行なった時のほうが良い燃費値が出ますが、その差は僅か。だったら使わない手はありません、なんせ1000km走るわけですから。
この時の平均燃費計は19-20km/h前後を表示。「これなら余裕で1000kmいけるな」と高を括っていました。それは伊勢湾岸から新名神に入っても同様の印象でしたが、ちょっと雲行きが怪しくなってきたのは、山陽道に入ってからです。
山陽道は最高速度80km/hの上に、緩い登り坂延々と続く区間になります。動力性能に関しては全く不満がないものの、問題は燃費。
アクセルは踏む方向なので燃費は落ちますが、「燃費をできるだけ落とさずに」と言う走行が難しく、瞬間燃費は10~13km/h前後をウロウロと。
さすがにアイサイトXをOFFにして走らせ方を色々試してみると、ジワーっとアクセルを踏み続けるより、少しだけメリハリのあるアクセル操作を行なったほうが燃費の落ち込みが少ない事が解りました。
これはTHSIIの機構を活かした応用的な操作なのですが、瞬間的にアクセルを戻す→EVモード入る→エンジン止まる→EV走行→エンジン再始動の繰り返しを意図的に行なう事でエンジンの仕事を抑えて燃費の悪化を抑えようと言う考えです。
ただ、それでも平均燃費は18km/Lを割ってしまう状況で「これだとギリギリダメかも(汗)」と焦りも。
そんな時、編集部Yはせっかくここまで来たので、一度行きたかった姫路城に寄りませんか」と提案が。
「こんな時に何をノンキな事を」と思いましたが、筆者も姫路にあるトヨタとパナソニックが合同で出資する「PPSC(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ)」のバッテリー工場の見学に行った時に姫路駅のホームからチラッとしか見た事が無かったのと、一般道も走りたかったので早速向かう事にしました。
■2日目はどんな感じ? 無事に1000km走りきれるのか?
姫路城は日本人が考える“お城”のイメージ…幾重もの堀に囲まれ、白い壁、高くそびえる天守閣にはお殿様、を全て満たしており、そのスケールと美しさに圧倒されたと同時に、束の間のリフレッシュができました。
一般道ではEVモードのフル活用に加えて、高出力のモーターアシストにより、燃費は回復傾向でホッとします。EVモードはトヨタのTHSIIよりも粘りがあるので、かなり頻繁に使えます。
渋滞にもハマって停止時間もかなり長めでしたが、今までのスバル車なら「燃費がみるみる落ちていく~」とガッカリする所ですが、S:HEVは全く問題ありません。渋滞を抜けバイパスを走ります。60km/h前後で流れていますが、ここでも頻繁にEV走行に切り替わります。
この辺りはTHSIIの強みがフルに出た感じですが、この区間で平均燃費は18km/L台に回復しました。
再び山陽道に乗り、瀬戸中央道経由で四国に上陸。瀬戸大橋が見えるホテルに宿泊し、復路のために地元グルメで英気を養います。
ちなみにスタートから612km走行して燃費は18.4km/L。燃料計の位置は半分を少しだけ割ったレベルでした。ホッとすると同時に、「これなら1000km走れるでしょう」と。
2日目の復路、早朝に撮影をこなしてから走り出します。高松道自動車道から神戸鳴門自動車道を通って本州へと戻ります。昨日の反省を活かした走行を心掛けると、平均燃費は更に向上。「このままなら1000kmどころか、1200kmもイケるかも!?」と期待は高まります。
今回、長時間走らせていた感じた事は、燃費を意識しながらの走行ながらもストレスが無い事でした。
それはストロングの名の通り力強い走りに加えて、スムーズ(Smooth)、静か(Silent)、意のまま(Synchronize)など、多くの「S」があるからだと。
更にCセグのハッチバックとは思えないドシっとした安定性、SUVであることを忘れるフットワーク、電子制御サスと勘違いするくらいのしなやかかつ路面のアタリが優しい乗り心地、そして長時間乗っても疲れしらずのシートなど、クルマとしての実力も相当高いです。
その後、名神高速の吹田サービスエリアで最後のピットイン。ここで1000km到達地点を計算すると、伊勢湾岸道の刈谷ハイウェイオアシスの手前だと。
「最後まで気を抜かずに走らせる」と気持ちを引き締めて向かいます。そして1000kmまで残り10kmくらいから筆者や編集部Yは“ソワソワ”し始めますが、Wカメラマンはトリップ1000kmの瞬間を撮影するためにセッティング開始。
そして、刈谷ハイウェイオアシスの手前10km地点で1000km達成。それと同時に燃料警告ランプが点灯と言うオマケつき。
つまり、ギリギリまで攻めた結果の1000kmではなく、「余裕を持って」と言う所がポイントです。ちなみに車内ではおじさん3人が「やったー」と思わず声を上げたのは、ここだけの話。
そして、無事に刈谷ハイウェイオアシスに到着。メーター上は「1010.6km」走って燃費は「19.0km/L」、残りの航続距離は「60km」でした。その後、併設のガソリンスタンドで燃料を満タンにすると「54.54L」。
燃料タンクは63Lなので、この時点でクルマには「8.46L」残っている計算になります。
つまり、1010.6km+(8.46L×19.0km/L)=「1170.74km」が、今回の1タンクで走れた航続距離です。高速主体だったとは言え、普通に走らせた結果。要するに「誰でもこの燃費は出せる」と言うわけ。
筆者はこれまでのスバル車を多くの人に進めてきましたが、「燃費はちょっと我慢してね」と言わざるを得なかったのも事実。ただ、クロストレックS:HEVは今回の結果が証明するように、燃費のエクスキューズ無しに素直にお勧めできる1台です。
このS:HEV、現在はクロストレックのみの設定ですが、開発者に聞くと「もちろん水平展開をしていきます」と語っています。すでに次期「フォレスター」への搭載は公言されていますが、個人的にはレヴォーグにも設定して欲しいとリクエストしておきます。
巷では高出力の水平対向エンジンやMTモデルがなかなか出ない事に苦言を呈する人もいますが、CAFE(企業別平均燃費)が他社よりも厳しいスバルにとってはやむを得ずな所があります。
しかし、S:HEVがシッカリ売れるとそのようなエンジンも作れる土壌ができます。そのためにもS:HEVをもっと応援してあげましょう。