正面に山がドーンと現れる景色が美しい「山アテ道路」は、一体どのようにして作られたのでしょうか。
■思わず見惚れてしまう「山アテ道路」とは?
ドライブ中、ふと目の前に広がる壮大な景色に心を奪われることがあります。
そのなかでも、道路を進むと正面に山がそびえ立つような場面は特に印象的です。
こうした山が真正面に見える道路のことを、一般的に「山アテ道路」と呼びます。
例えば、中央自動車道の下り線(名古屋方面)では、韮崎インターチェンジを過ぎると八ヶ岳が目の前に姿を現します。
その景色を知らせるために、「八ヶ岳連峰/最高峰(赤岳)2899m」と書かれた標識が設置されており、この工夫はドライバーに楽しみと安全意識を提供する目的で設けられたものです。
そして同じ中央自動車道でも、上り線(東京方面)では富士山が見える場所があります。
関越自動車道の下り線(新潟方面)では、高崎インターチェンジを越えると榛名山が視界に飛び込んできます。
ほかにも、青森市内の国道7号線では、津軽地方の象徴である岩木山が正面に見える直線区間があります。
この山は「津軽富士」としても知られ、その美しさは太宰治をはじめ多くの人々に称賛されています。
これらの山アテ道路は、必ずしも計画的に山を正面に据えて設計されたわけではなく、地形や都市計画の結果として偶然生まれたものもあります。
しかし、意図的に山を正面に捉えるよう設計された例も少なくありません。
東京都内を南北に走る中央通り(国道15号)は、京橋から日本橋にかけて、およそ70km先にある筑波山の方向を向いています。
この通りは江戸時代の東海道の一部として整備された歴史があり、現在でもその名残を感じさせます。
同じく都内には、日本橋北詰で中央通りと交差する本町通りがあり、この道は約100km先の富士山を見据える方向に伸びています。
この本町通りは、江戸時代の名所図会や浮世絵にも山アテの景色が描かれており、当時の人々もその景観を楽しんでいたことがうかがえます。
東京都国立市には、JR国立駅南側から放射状に伸びる3本の道路があり、そのうちの1本が富士山の方向を向いています。
この道は「富士見通り」と呼ばれ、条件が整った日には雄大な富士山の姿を望むことができます。
さらに北海道では山アテ道路が数多く見られます。
これらの道路は、明治時代の開拓期に測量技術が未熟だったため、山を目印にして原生林の中に道を切り開いたことに由来します。
例えば、羊蹄山周辺の国道5号線では、雄大な景観が広がります。
また、帯広市を通る道道216号は、コイカクシュサツナイ岳を目指して23.4kmもの直線が続いています。
この道路は、現代の視点から見ると単なる交通インフラを超え、歴史的背景や地域文化、さらには自然との調和を感じさせる貴重な景観資産です。
北海道に広がるこれらの風景は、「100年前の設計者からの贈り物」と称されるほど感慨深いものです。
日常的なドライブにおいても、山アテ道路に注目すると新たな発見があるかもしれません。
道路の先に広がる山々との位置関係に目を向ければ、景色そのものをより深く楽しむことができます。
運転をする時に、ただ目的地を目指すだけでなく、道中で出会う「山アテ」の瞬間をぜひ楽しんでみてください。