クルマを減速させる手段として使う「エンジンブレーキ」について、過去にSNSでは「使わないで欲しい」「迷惑運転だ」という投稿があり、話題となりました。なぜそのように感じるユーザーがいるのでしょうか。
■「エンジンブレーキがうざい」!? 一体どういうこと?
クルマを減速させる手段のひとつ「エンジンブレーキ」。教習所では、とくに「下り坂を走行する際」に使用するように習います。
しかし、過去にSNSでは「エンジンブレーキをうざいと感じる人もいる」「迷惑運転だ」という投稿があり、大きく話題となりました。
一体なぜそのように感じるユーザーがいるのでしょうか。
その理由とともに、エンジンブレーキは使わないほうが良いのか、教習指導員の意見とともに解説します。
エンジンブレーキを不快に感じるユーザーがいる理由を投稿内容から読み解くと、「ブレーキランプが点灯せず、減速していることが分かりにくい」からだといいます。
クルマを減速させる手段として最も一般的に使われる「フットブレーキ」は、車輪とともに回転するディスク(ドラム)にパッド(シュー)を押し付けられることで発生する摩擦により、クルマを減速させる仕組みであり、使用した際はブレーキランプが点灯して、後続車に減速していることを告知します。
一方でエンジンブレーキは、エンジンの回転時に発生する抵抗を利用した減速方法で、アクセルペダルを離すか低いギアに下げることでクルマを減速させる仕組みとなり、使用してもブレーキランプは点灯せず、後続車から見ると使用しているかどうかはひと目では分かりません。
上記の理由から、前方のクルマが予期せず減速するエンジンブレーキを煩わしく感じるユーザーがいる反面、当時のSNSでは「エンブレがうざいって意味が分からん」「つまり前を見てないってことだよね」「むしろ何度もピカピカとブレーキランプを光らせるより良いと思うけど…」といった反論もあり、意見が真っ二つに分かれていました。
■エンブレは悪ではない! しかし気をつけるべき注意点も?
このように賛否両論あることが分かりましたが、ではエンジンブレーキは使わない方が良いのでしょうか。
指定自動車教習所で指導歴18年の現役教習指導員であるA氏に話を聞いたところ、以下のような回答がありました。
「急な下り坂や長い下り坂を走行するときにフットブレーキを多用すると、『フェード現象』や『ベーパーロック現象』が発生するおそれがあります。
フェード現象は、ブレーキを連続的に使用することでブレーキの効きが悪くなる現象であり、摩擦材が過熱されてガス化し、ブレーキローターとブレーキパッドの間にガスが入り込むことで摩擦力が低下し、交通事故につながります。
また、べーパーロック現象は、過度なブレーキ操作によってブレーキ液が沸騰して気泡が発生し、ブレーキが効かなくなる現象であり、こちらも発生すると大事故につながる危険性があるのです。
そしてこれら2つの現象を防ぐためにも、下り坂でエンジンブレーキを活用することが大切であり、推奨されています。
ただし、意図的に強いエンジンブレーキをかけて急に減速し、後続車に追突させようとする運転は、安全運転義務違反等の違反になる可能性があります。
後続車のいる状況で減速するときや停止するときは、フットブレーキも使用しブレーキランプを点灯させることが、追突事故防止に効果的なのです」
続いてA氏は、以下のようにも述べました。
「クルマによってはエンジンブレーキが強く働くモデルもあるため、ブレーキランプが点かずに減速するようなクルマの後ろを走るときは、いつも以上に車間距離を取ることが大切です。
前のクルマと少しでも車間距離が短くなったと感じたら、早めにブレーキをかけて減速することが、自車の追突事故防止だけでなく後続車からの追突事故防止にもなります」
走行時には、ブレーキランプだけに頼って判断するのではなく、適切な車間距離を保って走ることが大切であることを、ハンドルを握る全員があらためて意識すべきでしょう。
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このように、ブレーキランプが点灯しないエンジンブレーキを煩わしく感じるユーザーも存在するものの、ブレーキの効きが悪くなる現象を起こさないためにも、下り坂でエンジンブレーキを活用することは推奨される正しい行為です。
「減速していることが分かりにくい」と感じる人は、ブレーキランプだけに頼った運転をせず、また自身が適切な車間距離を保てているかを再確認する必要がありそうです。