2005年に開催された「北米国際自動車ショー」で日産の北米法人が世界初公開したコンセプトモデル「アズィール」とは、どのようなクルマだったのでしょうか。
■若者をターゲットにしたエントリースポーツクーペ
未来のクルマのデザインや技術、機能性を示す”コンセプトモデル”は、さまざまなモーターショーやイベントでお披露目されています。
しかしながら、大反響を呼んだにもかかわらず市販化されず、日の目を見ることができなかったコンセプトモデルが少なからず存在します。
アメリカ・デトロイトで2005年に開催された「北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)」で北米日産が世界初公開したコンセプトモデル「AZEAL(アズィール)」は、「シルビア後継か」と噂されたほど注目を集めましたが、日の目を見ることができなかった1台でした。
アズィールは、クラシックなコンパクトスポーツクーペを現代的に再解釈し、スタイルと個性を兼ね備えた、コストパフォーマンス重視の若年層をターゲットにしたエントリースポーツクーペとして開発されました。
デザインは当時開設したばかりの日産デザインアメリカ車(NDA)の新設スタジオで制作され、スタジオ初のコンセプトモデルとして発表されました。
エクステリアは、大きく張り出した前後フェンダー、短いオーバーハング、格納式ルーフスポイラーを備えたスポーティなフォルムが特徴です。
フロントでは縦型ヘッドライトや四角形をモチーフにしたフロントグリルなど、当時のミドルサイズSUV「ムラーノ」やミドルセダン「スカイライン(V35型)」に通じるデザイン要素が見られます。
リアでは、クリアレンズのテールランプやスクエア形状の縦型マフラーエンドが採用され、先進的かつ個性的な印象を与えていました。
ルーフには大面積のガラスパネルと構造用ルーフレールが装備され、自転車やスポーツ、アウトドアギアなどを積載できるように工夫されています。これらのパッケージングからも、ターゲット層として若い世代を意識していることがわかります。
インテリアでは、運転の楽しさを重視したドライバー中心の設計を特徴としており、後席は2人乗りでスキー板などの長尺物を収納可能なスルー機能を備えています。
また、若草色の「Wasabi Chartreuse(ワサビ・シャルトリューズ)」を用いた有機的なシート生地がポップな印象を与える一方で、インパネやコンソールには無機質な金属調の加飾を施し、対照的な素材使いによるモダンな雰囲気を演出しています。
ルーフには一体型バックミラーとムード照明を備えたセンターオーバーヘッドストレージコンソールが装備され、ドライブ中の快適性を向上させています。さらに、フロントドアやセンターコンソールにはアンビエントライトが設置されて上質感が演出されています。
当時の先進技術として、格納式PDA(後のスマートフォン)を用いたインフォテインメントシステムも採用されています。
パワートレインは、直列4気筒2.5リッターガソリンターボエンジンに6速MTを組み合わせたFF(前輪駆動)となっていました。
アズィールは、コンセプトモデルにありがちが現実離れした極端なデザインではなく、そのまま市販車として販売されてもおかしくない現実的なコンセプトモデルであったため、市販化への期待が高まりました。
6速MT&ターボエンジン搭載の2ドアクーペということから、「シルビアの後継車」や「ブルーバードの復活」といった噂も生じましたが、その後に直接的な市販モデルは登場しませんでした。
しかし、一部のデザインや技術的要素は、2006年に発表された6代目「セントラ」などに引き継がれています。
アズィールは、市販化には至らなかったものの、手頃な価格でスタイリッシュなコンパクトクーペを求める若者向けのモデルとして、日産のデザインや技術の方向性を示す重要な一例となりました。