安全運転支援装備として普及した「衝突被害軽減ブレーキ」ですが、雪道などの過酷な道路環境下ではどのように機能するのでしょうか。
■「衝突被害軽減ブレーキ」が正常に作動する「条件」とは
前方の障害物などを検知し、自動でブレーキを作動させる「衝突被害軽減ブレーキ」。
システムの正常な作動には条件がありますが、仮に作動しても、道路環境次第では止まることができない場合もあるといいます。
衝突被害軽減ブレーキは、カメラやレーダーによって前方のクルマや歩行者を検知し、衝突するおそれがあるときに、停止もしくは減速をしてくれる「先進運転支援機能(ADAS)」の代表的なシステムです。
日本では2021年11月、フルモデルチェンジをする国産車への搭載が義務化され、国産車は継続生産車に対しても、今年2025年の12月から義務化となります。
輸入車に関しても新型車は2024年7月から義務化されており、継続生産車も2026年7月に義務化となります。
主に高齢運転者による交通事故防止対策の一環として導入されたもので、国による性能の認定制度も始まっています。
認定の要件は以下の通りです。
1.静止している前方車両に時速50キロで接近した際に衝突をしない、または衝突時の速度が時速20キロ以下となること
2.時速20キロで走行している前走車に時速50キロで接近した際に衝突しないこと
3.1および2において、衝突被害軽減ブレーキが作動する少なくとも0.8秒前に、運転者に回避操作を促す警報が作動すること
システムが作動する前にドライバーに警告し回避操作を促したうえで、それでも衝突の危険があるとシステムが判断した際、システムによって自動でブレーキを作動させ、衝突を回避もしくは衝突の被害を軽減してくれます。
ただ状況によってはシステムが正しく検知できなかったり、作動しなかったりすることもあり、過信は禁物です。
ホンダは安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダセンシング)」の「衝突被害軽減ブレーキ(CMBS)」の使用に際しての注意として、以下の場合は歩行者を正しく検知できない可能性があるとしています。
・歩行者の身長が1メートル以下の場合や2メートル以上のとき
・傘をさしているなどで歩行者の身体の一部が隠れているとき
・しゃがんでいたりなど(歩行者が)歩いている体勢ではない状態
このほかにも、夜間やトンネル内などの暗い場所や、雨や霧などの天候の状況、逆光になっているなどで、対象物が見えにくい状況であったり、鉄橋など周囲に電波を強く反射するものがあるときにも、システムが作動しない場合があるとしています。
これら以外にも、独立行政法人 自動車事故対策機構によると、カメラの前のフロントガラスに汚れがついている場合や、ダッシュボード上の物が窓に反射している場合も、衝突被害軽減ブレーキが十分な機能を発揮しないとしています。
窓に汚れがあることで前方の障害物を正確に検出できなければ、誤動作を起こしたり、システムが適切に作動しない可能性があるのです。
しかしシステムが作動したとしても、止まることができない可能性があるのが「雪道」です。
■JAFが積雪路面などで実施したテストの結果とは
JAF(日本自動車連盟)は2017年、衝突被害軽減ブレーキを圧雪路と氷盤路で検証する「ユーザーテスト」を実施しています。
新品のスタッドレスタイヤを装着したクルマを用意し、圧雪路と氷盤路(アイスバーン)を、時速10キロと時速30キロでそれぞれ3回ずつ走行し、障害物との衝突を回避できるかを検証しています。
このユーザーテストでは、いずれの場合も障害物を検知して衝突被害軽減ブレーキのシステムは作動しています。
しかし圧雪路を時速10キロで走行したケース以外は止まることができずに、障害物に衝突しました。
時速30キロで氷盤路を走行したケースでは、障害物を22mほども引きずってしまう結果になっています。
これは衝突被害軽減ブレーキの動作条件を、舗装路のドライ路面を前提にしているからで、路面の滑りにくさを表す「摩擦係数」で比較してみると一目瞭然です。
一般に舗装路(ドライ路面)の摩擦係数は0.8前後、舗装路(ウェット路面)は0.6から0.4なのに対し、積雪路は0.5から0.2、氷結路は0.2から0.1と大きな差があります。
ドライ路面と比べると、積雪路は半分以下のグリップレベルなのです。
雪道のように路面の摩擦係数が低い場所では、設計通りに性能を発揮できないばかりか、実際の交通環境下では、さらに複雑な路面状況も予想されます。
そのため、衝突被害軽減ブレーキのシステムが作動しても、適切に止まることができない可能性が高いのです。
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このほかタイヤの空気圧が低下していたり、タイヤが摩耗したりしていても、適切に止まることはできません。
衝突被害軽減ブレーキは、あくまで安全な運転を「支援」してくれる装備です。
機能を十分に理解し、悪天候などの条件下では過信することなく、普段以上に安全運転を心がけるようにしましょう。