クルマを始動させる時に押すスタートボタンですが、その位置は車種ごとに異なります。その理由や背景には一体どういったものがあるのでしょうか。
■「スタートボタンの場所」ってどうやって決められるの?
かつてのクルマでは、エンジンを始動するためにキーをハンドル付近に差し込んで回すのが一般的でした。
しかし、近年ではスマートキーの普及に伴い、エンジンスタートボタン(プッシュスタートボタン)を押すことでエンジンを始動させる方式が主流となっています。
この進化により、スタートボタンの位置も多様化し、車種ごとに異なる配置が採用されるようになりました。
スタートボタンの位置は、車種やメーカーによってさまざまです。
例えばホンダ「N-BOX」ではハンドル右下部に、日産「ノート」ではセンターコンソールのシフトレバー付近に、トヨタ「ヤリス」はハンドル左側に配置されるなど、全くもって統一感がありません。
なぜ、このように車種ごとに異なる配置が採用されるのでしょうか。
1つの理由は、スマートキーの登場によってエンジン始動の方法が変化したことにあります。
従来のイグニッションキーは右手で回す動作が必要でしたが、スタートボタンは押すだけで済むため、配置場所に関する制約が大幅に緩和されました。
そのため、運転席の右側にボタンを配置する必要性が低下し、より自由なデザインが可能になったのです。
さらに、合理性もスタートボタンの位置に影響を与えています。
右ハンドル車の場合、エンジン始動後に左手でシフトレバーやスイッチを操作することが多いため、スタートボタンも左側に配置する方が効率的だという考えもあります。
一方で、スタートボタンをハンドルの右側に配置している車種も少なくありません。これは特に、左ハンドル車が主流の市場に向けたモデルに多く見られます。
このような場合、デザイン変更によるコスト増加を避けるために、ボタン配置がそのまま引き継がれていると考えられます。
また、特定のメーカーでは、独自の歴史的背景がスタートボタンの位置に影響しています。
例えば、ポルシェのスポーツモデルでは、伝統的にスタートボタンが左側に配置されています。
これは、かつてのル・マン24時間耐久レースで、ドライバーが車両に乗り込む際に迅速にエンジンを始動できるよう設計された名残です。
このように、スタートボタンの位置にはその車種独自の背景や哲学が反映されることもあります。
現代のスタートボタン配置は、設計の自由度が増したことで、車種や市場のニーズに合わせて最適化される傾向にあります。
右ハンドル車が多い日本国内では、利便性やコスト効率を考慮しながら設計が進められており、ハンドル右側への配置が減少しているのが現状です。
一方で、グローバル市場を意識した車種では、左ハンドル仕様をベースにした配置が採用される場合もあります。
スタートボタンの位置の多様化は、クルマの設計が単に利便性だけでなく、コスト効率やデザイン哲学といった多面的な要素に基づいて決定されていることを示しています。
今後も技術革新が進む中で、スタートボタンの配置がさらに進化し、新しいトレンドが生まれる可能性も十分に考えられるでしょう。