横浜ゴムは、グローバルフラッグシップタイヤブランド「ADVAN」の新カテゴリー商品となるプレミアムSUV向けタイヤ「ADVAN V61(アドバン・ブイ・ロクイチ)」を2025年3月より日本で発売します。今回は先行してその実力を試してみました
■新たな仲間「アドバンV61」が追加
1978年に登場した「アドバン」は、日本のスポーツタイヤブランドの先駆けと言える存在です。
アドバン=Advance(進める、前進する)の名の通り、常に現状に満足することなく進化を続け、クルマ好きから高い支持を受けているのは言うまでもないでしょう。
そんなアドバンは2004年に「スポーツブランド」からヨコハマを代表する「フラッグシップブランド」へと生まれ変わりました。
現在はスポーツカー用のみならず、「今、乗っているクルマにマッチしたアドバン」を数多くラインアップしていますが、そこに新たな仲間「アドバンV61」が追加されました。
1番の特徴は「プレミアムSUV向け」と言う点です。
現在、世界的にセダンに代わるスタンダードになりつつあるSUV。
走行ステージは高速道路や市街地走行がメインですが、現在あるSUV向けタイヤは大なり小なりオフロード性能やM+S性能を求めるが故に、ユーザーニーズに完全にマッチしていたかと言うと必ずしもそうではありませんでした。
そこでSUVの中でも特に伸び率の高い中・大型プレミアムSUVに最適なタイヤを投入したと言うわけです。
興味深いのは「新車装着タイヤとして鍛えられてきた」事でしょう。
アドバンV61は2022年から自動車メーカーの新車装着タイヤとして納入されていますが、より厳しい要件が求められる新車装着タイヤ開発で鍛えられたモノを、そのままリプレイス用にサイズを拡大しています。
一般的には「新車装着タイヤとリプレイスタイヤは似て非なるモノ」と言われる事もありますが、アドバンV61は同じ。
ただ、それが故にV61と言うネーミングからプレミアムSUV用タイヤ用だと気が付きにくい所は少々気になります。
では、アドバンV61とは、どのようなタイヤなのでしょうか。
今回は、いくつかの場面毎にアドバンV61の特徴を見ていきます。
最初はトヨタ「bZ4X」を用いた「転がり抵抗」のテストです。
スロープから惰力で走らせ、その到達距離で転がりの良さをチェックします。
「アドバンなのに、なぜ?」と思いましたが、電動化が進むSUVでは無視できない性能です。
比較タイヤは同社のSUV専用サマータイヤ「ブルアースXT AE61」。
実際にテストするとアドバンV61が15m近く引き離して圧勝。
特に速度が低下してから伸びの良さに、「君は本当にアドバンなの?」と思ってしまったくらい。
ちなみにJATMAラベリングの転がり抵抗はAA/AAAを実現。この辺りは発熱を抑えるゴム採用(トレッド下層のベースゴム、サイド部)や専用コンパウンド、専用のプロファイルが大きく寄与していると言います。
では、肝心な走りはどうなのでしょうか。
パイロンで構成された特設コースでbZ4Xを用いてアドバンV61とブルアースXT AE61を比較しながらの走行です。
試乗前は「あれだけ転がりがいいので、アドバンを名乗っていいのかしら?」と不安でしたが、それは単なる取り越し苦労で、「転がりの良さ以外は、いつものアドバンだ」と実感。
ゼロ発進加速ではアクセル全開でTCSがチカチカ点滅する(=グリップが足りない)ブルアースXT AE61に対して、アドバンV61は何事もなく駆動力をグッと路面に伝えながら加速。
そのため100km/hまで到達時間もアドバンV61のほうが確実に速いです。
そのまま100km/hからフルブレーキングで完全停止しますが、ブルアースXT AE61はグリップがすぐに逃げてしまい制動初期からABSが頻繁に作動するのに対して、アドバンV61は路面にガシッと食いつくようなグリップでABSの介入も必要最小限。
このフィーリングはスポーツタイヤそのもので、「あれだけ転がるのに、なぜ?」と思ったくらいです。
パイロンスラロームは最も差が出た部分です。
ブルアースXT A61素直なハンドリング特性ながらも、速度を上げると切り始めの応答やそこからのクルマの動きや切り返し時の姿勢変化など、「やっぱりSUVだよね」と感じてしまいますが、アドバンV61は「SUVを忘れる」、シャキッとした骨太なハンドリングが特徴。
もう少し具体的に言うと、ステアリングの切り始めた瞬間からノーズがスッと素直にインを向く(=応答遅れが少ない)→旋回姿勢に持ち込みやすく(=ステアリング舵角は最小限なのでグリップ最大限に使える)→無駄なロールやピッチが少ない(=接地が安定)→より素直/より安心して曲がれると言うわけです。
この辺りは高重量のSUVを支える専用構造(マウンドプロファイル、幅広ベルト、高剛性ハイターンナップ構造など)や専用設計パターン(ライトニングエッジグルーブ、高剛性パワーショルダー、トリプルセンターリブ)、専用プロファイル(接地形状/接地圧分を最適)。
そして専用コンパウンド(シリカの分散性を大幅に向上させる配合技術(A.R.T.Mixing)を活用し、相反する性能を高次元でバランス)などの相乗効果によるモノ。
この辺りは人とAIの協奏により、より緻密/より明確/より深い分析を可能にする横浜ゴム独自のAI活用フレームワーク「HAICoLab」の活用も大きいと言えそうです。
■国産高級SUVに乗って違いは…? 横浜ゴムにとっての「ADVAN」とは
次にプレミアムSUVには必須となる乗り心地は40~50km/hで高さの異なる突起を乗り越えて確認します。
入力自体は大きな差はないものの、時間をかけてショックを抑えるブルアースXT AE61に対して、アドバンV61はシュッとショック収めるスッキリとした減衰感が印象的。
静粛性はHAICoLabを駆使したピッチ配列の最適化により音の周波数ピークを分散。パターンノイズはかすかに聞こえますが、普通に乗っていれば気にならないレベルかなと。
更に一般道で何台かのプレミアムSUVに試乗しましたが、その中でも特に印象的だったのは、マツダ「CX-80」と三菱「アウトランダーPHEV」の2台でした。
CX-80は、乗り心地を意識しすぎてハンドリングが良く言えば穏やか、悪く言えばダルになっていましたが、アドバンV61を履くと乗り心地はそのままに「君はCX-80なのか?」と言ったキレの良いハンドリング。
アウトランダーPHEVは、大幅改良で総合性能を引き上げられた一方で、従来モデルの元気の良さが薄れてしまった感もありました。
アドバンV61を履くと従来モデルと大幅改良モデルのいい所取りな走りに。どちらも「これが純正タイヤじゃないの?」と思ってしまうくらいのマッチングの良さを感じました。
総じて言うと、アドバンV61は「アドバンらしかぬ」と「アドバンらしさ」の両方を持つタイヤだと感じます。
もう少し解りやすく言うと、エコタイヤとスポーツプレミアムタイヤが必要な時に瞬時に化けるタイヤ。
更に「タイヤを変えるとクルマが変わる」は言わずもがなですが、タイヤだけが主張することなくクルマに上手く溶け込んでいる点は新車装着タイヤ譲りなのかなと。
ちなみにこの試乗会には、横浜ゴムの代表取締役兼COOの清宮眞二氏の姿も。
氏は「弊社のエンジニアは常に全力投球ですが、『アドバン』の名が入る製品だと、『これではアドバンとは呼べない』と自ら更に高いハードルを掲げて開発するクセがあります(笑)。このタイヤにもそんなエンジニアの想いがたくさん詰まっています」と教えてくれました。
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発売サイズは225/60R17~255/45R22までの新車装着(OE)用を含めた17サイズを設定。
日本を皮切りに北米を除く全世界で順次販売を行なうそうです。
「SUVでもアドバン」、これが新しいタイヤ選びの基準と言えるかもしれません。