日本初となる「寝台バス」が、3月から実証運行という形で実用化することになりました。今まで要望がありながら実現してこなかった「完全に横になって眠れる夜行バス」はなぜ実現したのでしょうか。またこれから人の移動をどう変えていくのでしょうか。
■「フルフラット座席」で「熟睡できるバス」誕生へ
日本初となる「寝台バス」が、3月から実証運行という形で実用化することになりました。
今まで要望がありながら実現してこなかった「完全に横になって眠れる夜行バス」は、人の移動をどう変えていくのでしょうか。
今回発表されたのは、高知駅前観光が開発を進めていた「ソメイユプロフォン」と、それを装備した夜行バスの運行開始です。
「ソメイユプロフォン」はフルフラット座席のユニットで、前後2席をセットとして、寝台モードは上下2段のフルフラット座席へ切り替えられる設計です。
国土交通省は2024年11月に「フルフラット座席を備える高速バスの安全性に関するガイドライン」を策定。「転落防止プレート」「衝撃吸収材」「転落防止措置」「2点式座席ベルト」などの安全要件を指定していました。今回のソメイユプロフォンも、この要件を満たしています。
まずはモニター運行として、東京~徳島・高知の夜行路線で、全席フルフラットを備えた新車両での運行が行われます。
運行開始は3月4日で、週に1往復の運行予定。モニター期間は5か月ほどを予定しており、その後モニターで得られた改良点などをふまえて、早ければ秋ごろの本格運行、さらに「ソメイユプロフォン」の他社展開を計画しているといいます。
本格運行の詳細はまだ未定としながらも、東京~徳島・高知を週4往復する「スマイルライナー」に別途の追加便となる形で、同曜日(つまり週4往復)に寝台便を投入する見込みだとしています。
■敬遠されてきた「夜行バス」根底からイメージ変える?
日本初となった「寝台バス」はどういう経緯で生まれたのでしょうか。
そもそも背景として、夜行バスには「ホテル代が節約できる」「寝ている間に移動できるので、移動時間が実質的にゼロ」、さらに「他の交通機関に比べて安い」という、圧倒的な強みがありました。
しかし、その圧倒的な強みを打ち消して、さらに遠ざけてしまう強烈なマイナス面が、「横になれないので、熟睡できない」ということでした。
30日の記者会見で、高知駅前観光の梅原 章利社長は「昨今のホテル代の高騰もあり、旅行のあり方は多様化して『自分の使いたいところにお金を使いたい』という人も増えています」と話します。
そうした背景からまさに安価な夜行バスは新しいニーズに合致していますが、「安いけれどきつい つらい」というイメージが払しょくできていません。梅原社長は寝台バスによって「そうしたイメージを根底からくつがえし、新たなユーザーの掘り起こしをしたい」としています。
もちろん、すでに社長自身はこのフルフラット座席「ソメイユプロフォン」を体験済み。その感想を聞かれた社長は「想像の何倍もスムーズでした。揺れなど、難点がいろいろあるのでは?と思っていたところ、実際に横になって足をのばすと、数分で眠りに落ちてしまいました」と話しています。
■なぜ今まで「寝台バス」無かった? 突破口となった「きっかけ」は
これまで夜行バスでは、「完全個室」や「座り心地を極めた快適シート」などの上質性を売りにするサービスが各種展開されてきましたが、「完全に横になる」というサービスが生まれないままでした。
梅原社長は「バスにおける寝台というのは、座席として認められない…という認識が、業界に長らくあった」と話しています。
しかし「それは本当にそうなのか?ルールとして明確化されているのか?」という疑問に対して、誰も確認したことがなかったとか。
そこで同社は2018年に、国土交通省に対し、「バスのシートのリクライニング角度は、何度までにしなければならないという取り決めがあるのか」と質問。それに対して「特に無い」という回答があったといいます。
ということは、180度倒せばフルフラット、つまり寝台なのではないか…? というのが、この事業を進めようとしたきっかけだったとのこと。
同社は開発を進め、2023年11月にさいたま市で開催された「第9回 バステクin首都圏」に試作品を出展。
この時、搭載したバス車両を大宮の会場まで回送するため、車検に通る必要がありました。結果は見事合格。つまりこの時から、保安基準では問題ないことが分かっていたといいます。
おりしも、国土交通省の「車両安全対策検討会」で、フルフラット座席の高速バスについて安全性のガイドラインをまとめるという動きが始まりました。
バステクでの試作品発表から、今回の正式発表までは1年以上かかっていますが、それにはこのガイドラインが取りまとめられることが分かっているのであれば、その策定を待って、そのガイドラインに合わせるべきだと判断したからだといいます。
今回開発のキーとなったのは「拡張性」とのこと。ソメイユプロフォンは、短時間で座席~寝台の切り替えが可能であるというのが設計コンセプトです。同じバスで「座席~寝台」を自在に切り替え可能にすることで、「昼間は観光、夜間は移動しながら就寝」という、ホテルを必須としない新たな旅行のあり方を提示することができます。
「ビジネスとしていろいろ展開するポテンシャルがある」と同社が語る、今回完成のフルフラット座席。
「バスで横になって眠る」という悲願の移動方式が、この先普及して「当たり前」になっていくのでしょうか。