小さなサイズと安価な車両価格が魅力の「軽自動車」ですが、中には高級感も兼ね備えたラグジュアリーな仕立てのクルマも存在しました。一体どのようなモデルなのでしょうか。
■成熟した大人の「“高級”軽自動車」!
現在、日本の自動車市場におけるシェアが40%にも及ぶ「軽自動車」。
小さなボディサイズを活かした取り回しの良さとともに、コストを抑えて実現した車両価格の安さも高い人気の理由です。
その一方で、内装のラグジュアリー感を重視し、軽自動車でありながら高級車仕立ての斬新なクルマも過去に存在しました。
そのクルマの名は、ダイハツの「タントエグゼ」。
広々とした車内空間が特徴の「タント」の派生車種でありながら、利便性よりも上質感を重視した異色のモデルです。
2009年、すでに発売されていた2代目タントを追うかたちで、タントエグゼは発売。
同車のベースとなったタントは、従来の軽自動車を超えた広々とした車内空間を実現し人気を獲得していましたが、それにくわえてタントエグゼには「快適かつ上質なインテリア」も採用されています。
最大の特徴となるのが、「グラマラスシート」を名付けられた厚みたっぷりの座席です。
さらに座面に起伏を設けることで、通常のタントや他の軽自動車を上回る、上質な座り心地を実現。
くわえて室内高もタントより20mm拡大し、より広々とした室内空間を確保しました。
インテリアのカラーコーディネートも、ベージュとブラックを組み合わせた落ち着いた内装デザインとし、「大人の軽自動車」に相応しい雰囲気を完成させています。
そんなタントエグゼは外観デザインにもこだわりが見え、なんとベースのタントとは完全に異なるエクステリアを採用。
つまり単純にタントを飾り立てたようなモデルではなく、ダイハツが本気で開発した“渾身の1台”だったことが推察されます。
また、同車の説明において欠かすことのできない特徴が、リアドアに「スイングドア」を採用する点。
ベースのタントなど軽ハイトワゴンに用いられる「スライドドア」をあえて使用せず、高級乗用車さながらのドアタイプに変更して、上級モデルとしての差別化を図ったのです。
こうして満を持して登場したタントエグゼ。
開発に力を入れた上質なインテリアやシートの座り心地、走行中の快適性についての評価は高いものでしたが、売れ行きは想定していたほど伸びませんでした。
その原因のひとつと言われるのが、ドアが「スライドドアじゃなかった」ことです。
当時すでに軽ハイトワゴン市場ではスライドドアを備えることが必須となっており、あえてスライドドアを採用しないというタントエグゼの選択は、多くの消費者の購入候補から外れる結果になりました。
その後ダイハツは人気を挽回するためタントエグゼのマイナーチェンジを行い、より高級感のある外観へと刷新されますが、想定したほどの効果は無く、残念ながら2014年9月で販売を終了。
軽自動車という枠の中で高級感を追求し、異例の上質感を実現したタントエグゼでしたが、約5年というモデルライフの短さで新車市場から姿を消してしまいました。
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ファミリー層をターゲットにしていたタントに対し、自分らしさを大切にする成熟した大人の男女をターゲットにした、“大人のタント”のタントエグゼ。
「車内空間の広さ」と「上質なデザイン」にくわえて、約60kgの軽量化による「走りの良さ」も評価されたものの、短命に終わってしまったことが今なお悔やまれる1台です。