2025年1月28日、鈴木法務大臣は「危険運転致死傷罪」の見直しについて、法制審議会に諮問することを明らかにしました。同年2月10日におこなわれる法制審議会では、どのような部分が論点となるのでしょうか。
■どんな運転をすると「危険運転致死傷罪」になる?
2025年1月28日、鈴木法務大臣は「危険運転致死傷罪」の見直しについて、同年2月10日におこなわれる法制審議会に諮問することを明らかにしました。
現在、危険運転致死傷罪の適用に関してはどのような課題があるのでしょうか。
法制審議会とは、法務大臣の諮問に応じて民事法や刑事法、その他法務に関する基本的な事項を調査・審議する機関です。
一般的には法制審議会の答申内容に基づいて法務省が法案を作成し、国会に提出します。
今回、法制審議会においては危険運転致死傷罪の適用要件について議論されます。
一体どのような点が課題なのでしょうか。
そもそも危険運転致死傷罪は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称:自動車運転処罰法)」第2条に規定されており、次のような行為によって人を死亡・負傷させた場合に適用されます。
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●アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
●進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
●進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為(無免許運転など)
●他の人や車両を妨害するような運転行為(割込み、幅寄せなど)
●信号を殊更に無視し、なおかつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
●通行禁止道路を進行し、なおかつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
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つまり飲酒運転や猛スピード運転などの危険な行為に適用されるといえますが、これまで発生した死傷事故では危険運転致死傷罪が適用されないケースも多く、専門家から構成される有識者検討会では「適用要件があいまい」との指摘がなされてきました。
たとえば2020年11月、福井県福井市内において酒気帯び運転の男がパトカーの追跡から逃走中に時速105キロで軽乗用車に衝突し、相手の男女2人を死傷させた事故ではドライバーが危険運転致死傷罪に問われました。
この事故では衝突時に「進行を制御することが困難な高速度」だったか否かが裁判の争点となります。
しかし、「ドライバーの男はぶれずに直進していた」などとして危険運転致死傷罪が認められず、男には過失運転致死傷罪で懲役5年6か月が言い渡されました。
また2018年に三重県津市の国道において、会社社長の男が時速146キロという猛スピードでクルマを運転してタクシーに衝突し5人を死傷させた事故でも、危険運転致死傷罪ではなく過失運転致死傷罪が適用されています。
特に「進行を制御することが困難な高速度」に関しては、「時速●km以上」といった明確な基準が定められているわけではありません。
道路の形状や路面状況、自動車の構造などさまざまな事情を考慮して判断されるため、危険運転致死傷罪の適用ハードルが高い状況にありました。
このような現状に対し、2024年11月におこなわれた有識者検討会においては、以下のような意見が寄せられています。
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《飲酒運転について》
●一定の数値以上のアルコールを身体に保有する状態で自動車を走行させる行為を一律に処罰対象とすることを検討すべき
●アルコール濃度の数値基準については、呼気1リットル当たり0.5ミリグラム以上、0.25ミリグラム以上、0.15ミリグラム以上にするといった選択肢が考えられる
《高速度の運転について》
●高速度について数値基準を設定し、その速度以上の速度で自動車を走行させる行為を一律に処罰対象とすることを検討すべき
●具体的な数値基準については、最高速度の2倍や1.5倍の速度といったものにすることが考えられる
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2025年2月10日に実施される法制審議会では、危険運転の条件をどのように明確化していくかを諮る予定であり、飲酒運転や高速度の運転に対して一定の数値基準を設けるかについても議論されるものとみられます。
さらに、タイヤを滑らせる「ドリフト走行」を新たに危険運転致死傷罪の処罰対象とするかについても諮問することにしています。
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今回の諮問に対してはインターネット上で「ようやく法改正に向けて動き出したという印象」「早急に具体的な基準を設けて欲しい」「厳罰化を求む」など、さまざまな声が聞かれました。
危険運転致死傷罪の適用要件が今後どのように変わるのか、その動向が注目されています。