燃費や安全性の向上だけでなく原材料費や輸送費も高くなったことで、新車の車両本体価格が高騰しています。そんななか、海外には非常にシンプルで質実剛健なロングセラーモデルが存在します。その代表例であるスズキ「ボラン」を紹介します。
■贅沢は言わない! 「移動する道具」としてならコレで十分
先進運転支援システムの標準装備や電動化といったクルマ本体の高性能化に加え、原材料費や輸送費の高騰から、国内では新車価格が非常に高くなっています。
軽自動車でも200万円を超えることが珍しくないなか、途上国では非常に簡素で実用に特化したロングセラーモデルが愛されています。その代表モデルがスズキ「ボラン」です。
ボランは1982年に登場したコンパクトバンです。発売から2025年2月現在に至るまで、一切のフルモデルチェンジは行われていないにも関わらず、現在も新車で購入が可能です。
ベースは1982年に登場した軽商用バン「エブリイ」初代で、スズキのパキスタン法人であるパック・スズキが現地工場で生産しています。
ボディサイズは全長3255mm×全幅1395mm×全高1845mm、ホイールベースは1840mm。現行の軽自動車よりもかなり小さく、途上国の狭くて険しい道路であっても取り回しのしやすいコンパクトサイズです。
このような小さいサイズですが、一応5人乗りを実現しています。
エクステリアは初代エブリイの特徴ともいえる、一切の飾りを廃したシンプルでスクエアなスタイリングです。
フロントフェイスは機能に根付いた角目2灯の大きなヘッドライトに簡素なバンパーを備えるのみで、40年前のエブリイ登場当時の面影を残す、素朴で味わい深いデザイン。
一応現行モデルでは2灯ライトを黒いグリル風ガーニッシュで囲うなど、やや現代的な装いとなっています。
ボディサイドも至ってシンプルで、大きな窓とスライドドアがあるほか、小ぶりな樹脂製ドアハンドルや手動調整ミラー、Bピラーには昔懐かしいサイドマーカーランプを備えています。
両側スライドドアは装備されていますが、パワースライドやイージークローザーなどの機構は当然なく、ウインドウも引違い式の手動で、フロントもパワーウインドウはありません。
そしてインテリアはさらに簡素な仕立てです。豪華さや上質さといった言葉は全くの不釣り合いで、加飾パネルやステッチはおろか、フロアカーペットや、ルーフ・ピラーなどの内張りも省略され、外板がむき出し。
助手席のグローブボックスをはじめ、いくつかの収納はありますが、樹脂の塊のようなインパネには最低限の情報を表示する120km/hメーターが装備されるのみで、当然エアコンは非装備。これに伴い吹き出し口も存在しません。
ドライバーが触れる部分は、質素な大径4本スポークのステアリングと、整然と並んだサイドブレーキとシフトノブ程度です。
一方で、シートやドアにはブルーのアクセントカラーが配されるなど、最低限のオシャレさを主張しており、なんとも微笑ましい仕立てです。
先進運転支援システムの類は一切設定がなく、特筆すべき安全装備はフロントシートベルトです(リアにはオプションも設定無し)。
機能装備にはBluetoothやUSB接続、MP3にも対応するラジオデッキが装備されており、この点は唯一現代に適合した大進化点といえます。
パワートレインは最大出力37馬力・最大トルク62Nmを発揮する796ccの直列3気筒エンジンに4速MTを組み合わせ、後輪駆動です。
現在新車で販売されているモデルは、5人乗り乗用モデルに加え、最大積載量550kgを確保した2人乗り商用モデル「カーゴ」の2タイプをラインナップ。
パキスタンでの価格は194万パキスタンルピー(約97万円・バン仕様は4000ルピー高)で販売されています。
このほか、ボランの派生モデルとして「ラヴィ」というピックアップモデルも販売中で、こちらは「キャリイ」のパキスタン現地仕様となります。
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スズキは2024年10月、ボランの後継となる「エブリイ」を発表。11月から現地で販売を開始しましたが、価格は1.5倍以上と非常に高額なモデルとなったことで、しばらくはボランも併売される方針です。
ちなみに、途上国では登場から数十年経過した旧モデルが愛されている傾向にありますが、これは未舗装で狭隘な道が多く、大きなボディサイズが必要でないことが理由として挙げられます。
また、旧態依然とした陳腐な設計がむしろメリットになっており、いくつかの工具やパーツさえ持っていれば簡単に整備・保守ができ、長年に渡る展開ゆえに、保守部品や修理ノウハウが蓄積されていることも利点です。