岩手県を東西につなぐ高規格道路「宮古盛岡横断道路」の事業が大詰めを迎えています。一体どのような道路で、どこまで整備が進んでいるのでしょうか。
■盛岡~宮古「45分短縮」の衝撃
岩手県を東西につなぐ高規格道路「宮古盛岡横断道路」の事業が大詰めを迎えています。
一体どのような道路で、どこまで整備が進んでいるのでしょうか。
宮古盛岡横断道路は、東北道のある盛岡市から、太平洋岸の宮古市までをつなぐ約80kmの道路です。国道106号のバイパスにあたります。
三陸方面への貴重な東西軸で、岩手県北バス「106急行バス」「106特急バス」が運行されていますが、この国道106号がとにかく旧態依然とした狭い2車線道路で、長い長い「区界峠」の山道や、谷間の急カーブ・狭隘・急勾配の連続で、ドライバーを疲弊させる難路となっています。
そこで、トンネル主体で道路をスムーズにし、災害にも強いルートを確保するのが「宮古盛岡横断道路」計画です。
なお、国道106号に並走するのが「JR山田線」です。1934年に盛岡~宮古がつながり、貴重な三陸エリア直結ルートとして活躍しました。
しかし自動車の普及とともに鉄道需要はどんどん低下し、今や盛岡~宮古は1日わずか「4往復」しか運行されません。両市街地以外はほぼ山岳地帯で、途中は秘境駅。「鉄道マニアしか乗らない路線」という声もあるほどです。
JR東日本が開示した2023年度の収支では、上米内~宮古の区間だけで17.5億円の赤字をたたき出し、100円の運賃収入を得るのに5120円のコストがかかるという状態で、乗客はJR発足時のわずか10分の1しかありません。「廃止に限りなく近い」路線の1つに挙げられています。
それに追い打ちをかけそうなのが、宮古盛岡横断道路の存在です。
宮古盛岡横断道路は約8割が完成済み。2020~2021年には「区界道路」(8km)、「平津戸松草道路」(7km)、「川井~箱石地区」(7km)、「下川井地区」(2km)、「蟇目腹帯地区」(7km)が一気に開通し、盛岡~宮古アクセスにとって革命的な進展を迎えました。
これにより、「106特急バス」の所要時間は「45分短縮」というすさまじいものとなりました。
JR山田線の盛岡~宮古の所要時間は快速「リアス」でも2時間半近いのに対し、「106特急バス」は1時間40分で、もはやJR快速とは比較にならないほど速達です。何よりJRの「実質的にほぼ運行していない」レベルの破滅的ダイヤに比べて、路線バスは1日「12往復」もの頻発運転で、1時間間隔の乗りやすいダイヤとなっています。
マイカーにとっても、震災前と比べて所要時間はすでに30分短縮。また自動車交通量自体も1日3900台から6400台へ、2020年からのわずか1年で「64%増」という数字が出ています(コロナ禍前後という背景にも注意)。
そして、この道路の所要時間は、宮古盛岡横断道路の全通でさらに短縮されていきそうです。
まず、宮古市街手前の「田鎖蟇目道路」(7.2km)が2020年に事業化。さらに「箱石達曽部道路」(9.7km)が2021年に事業化するなど、大型案件のスタートが連発。これらが完成すれば、盛岡~宮古はほぼ全線にわたって高規格で走行可能になります。
どの高規格道路も同じく「災害で寸断されることのない」ことが主目的のひとつです。国道106号も2016年に台風による土砂崩れなどで11日間の通行止めとなり、交通ネットワークに大きな影響を与えました。
宮古盛岡横断道路の整備が完了すれば、滅多なことで通行止めにはなりません。いっぽう、JR山田線はいつ被災するか分からない状況のままです。一度大きく被災した場合、路線運営にとって致命的となる可能性が高まっています。
それを裏付けるのが、JR山田線から分岐していた「JR岩泉線」です。同じく屈指の閑散路線でしたが、2010年に土砂崩れで被災し、そのまま2014年に廃止されてしまいました。廃線跡は並行する「国道340号」の高規格化に転用され、2987mの「押角トンネル」などに生まれ変わっています。