インターネット発祥の「都市伝説」の中でも抜群の知名度を誇るのが「きさらぎ駅」というものです。そのタイトルから「鉄道系怪談」に分類されることが多いですが、実は道路にも密接に関係しています。
■最恐の都市伝説「きさらぎ駅」の本当の恐怖とは
インターネット発祥の「都市伝説」の中でも抜群の知名度を誇るのが「きさらぎ駅」というものです。
そのタイトルから「鉄道系怪談」に分類されることが多いですが、実は道路にも密接に関係しています。
「きさらぎ駅」とは、匿名掲示板「2ちゃんねる」の「オカルト板」上の実況スレッドに書き込まれた、ハンドルネーム「はすみ」氏というユーザーによる一連の投稿内容です。
通勤で使っている「静岡県の私鉄」の「新浜松からの電車」に、日付も変わろうかという時刻に乗っていたところ、20分くらい駅に停車せず、ずっと走り続けていて不安だ…という書き込みから始まります。
最初の書き込みから1時間11分後、「今きさらぎ駅に停車中です」と報告。そのまま投稿主は、きさらぎ駅で下車します。
実は、きさらぎ駅で下車してからが、怪異の本番と言っていいでしょう。
線路沿いに歩いていると、草原や山が見えているだけで、携帯電話で調べてもエラー。110番通報しても取り合ってもらえず、どこからか太鼓や笛の音が聞こえてきます。さらに「線路の上を歩くと危ない」という声がして振り向くと、「片足だけのおじいさん」が立っていて、すぐ消えてしまいます。
「伊佐貫トンネル」を抜けたあと、最初の書き込みから4時間が経過し、事態は急展開を迎えます。
「先の方に誰か立っています」
「親切な方で近くの駅まで車で送ってくれる事になりました。そこにはビジネスホテルみたいなものがあるらしいです」
「先程よりどんどん山の方に向かってます」
「もうバッテリーがピンチです。様子が変なので隙を見て逃げようと思っています」
この書き込みを最後に、投稿主は音沙汰が無くなってしまいます。謎の人物にクルマに乗せられて、30分が経過していました。
■投稿主はどうやって「連れ去られた」のか
この「きさらぎ駅」は基本的に、「いつもの電車に乗っていたら異世界に連れていかれた」という恐怖の文脈で語られることがあります。
そのモデルは浜松市中心街から北へ伸びる「遠州鉄道」であるとされています。ちょうど話に合う場所に「さぎの宮」という駅が実在し、遠州鉄道も公式サイトで、ここがモデルであるとしてコンテンツを展開しています。
では、「静岡県の私鉄」に乗らなければ、異世界に連れていかれなかったのでしょうか。いや、むしろその入口は「道路上」にある可能性もあります。なぜなら、投稿主を連れ去って行方不明にさせたのは、駅を下りてから道中で出会った謎のドライバーだからです。
実は、さぎの宮駅のすぐ南側に、東名高速が交差しています。東側には「浜松IC」がありますが、2017年には駅からもっと至近距離に「三方原スマートIC」が開業しました。
もし投稿主を連れ去った存在が東名に関する怪異であれば、スマートICの開業によって「より危険」になっているかもしれません。
いっぽう、もし「どんどん山の方に向かっています」が現地と符合するのであれば、それは遠州鉄道と並行して北上する「国道152号」かもしれません。
国道152号は旧二俣町から山岳地帯へ入ると、天竜川に沿っていよいよ南アルプスの奥地へ入っていきます。あまりの険しさに、まともな道路は存在しません。
国道152号のハイライトとなるのが、いまだ未開通の「青崩峠」です。
ここを抜ければ長野県飯田市へ出ますが、強烈な峠のため、1994年に一部が開通したまま計画放棄されるという、「土木の敗北」があった場所です。
青崩峠は歴史にたびたび登場し、戦国時代には武田信玄が甲斐から遠州へ侵攻した際にこの国境を抜けた記録があります。
武田家は浜松エリアを支配しますが、のちに長篠の戦いで織田・徳川軍に敗れたあと、破滅的な衰退を辿っていきます。
投稿主がそのまま姿を消すとすれば、最果てとも言える「青崩峠」を発端とする異界に導かれた可能性があります。
聞こえてきた太鼓や笛の音、そして足の無い老人は、武田家の落ち武者の霊がそこかしこに漂っているのかもしれません。
しかし、その異界は間もなく消滅するでしょう。というのはここに、長さ4998mの「青崩峠トンネル」が完成したからです。2025年3月に本体完成式が開かれる予定で、仕上げ工事も大詰めです。
巨大な異界に巨大な風穴があき、浜松~飯田を貫く高規格道路「三遠南信道」の誕生によって、もはや「はすみ」氏に次ぐ新たな被害者が生まれることは無くなってしまうのかもしれません。