一般的には「EVは寒冷地では厳しい」と言われますが、果たして本当なのか、三菱ふそうの小型EVトラック「eキャンター」を冬の北海道で検証しました。
■EV逆風の今こそ未来を見据えた“種まき”を
昨今「EVに逆風」「EVバブル崩壊」のような報道が流れていますが、それらはさまざまな課題(資源調達やインフラ整備、さらにはバッテリー)が山積みにもかかわらず、いろいろな意味で先走ってしまったことが原因だと、筆者(山本シンヤ)は分析しています。
ただ、中・長期的に見るとEVシフトは避けられないので、その時に向けた“種まき”はシッカリと行っていく必要があると筆者は考えます。
そんな1台が今回紹介する三菱ふそうの小型EVトラック「eキャンター」です。2017年に登場以降、2020年に第2世代、そして2023年に第3世代へと進化。グローバルでは38カ国に展開され、日本では2000台以上が納入されています。
一般的には「EVは寒冷地では厳しい」と言われることがありますが、実は上記台数の約10%が寒冷地で使われています。
また、寒冷地だからこそ、EVトラックの強みが出る部分も多いと言います。今回はそれらの検証をするために、雪の北海道(ルスツリゾートの特設コースとその周辺の一般道)で試乗してきました。
■巨体でも軽快! EVトラック「eキャンター」の実力
見た目は普通のキャンターと大きく変わりませんが、下回りをのぞくとリアにはアクスル、リダクションギア、モーター、インバーターが一体化された「eアクスル」と、ホイールベース間にバッテリー(用途に合わせて3タイプ[41/82/124kWh])を備えています。ちなみにキャブ下の元々エンジンが搭載されていた場所には補器類が集約されています。
まずは公道試乗です。モデルはエクストラワイドキャブでホイールベースは4750mm、モーター出力は175ps/430Nm、バッテリーは124kWhというスペックです。ちなみに車両重量は6010kg+積み荷約600kg(最大積載量は1800kg)です。
試乗会拠点の関係で、いきなり急勾配の下り坂からスタートします。内燃機関のトラックであれば排気ブレーキなどの補助ブレーキを活用しながら下りますが、eキャンターは回生ブレーキを活用します。
その強さはゼロから4段階まで調整可能(シフトレバーで行う)ですが、最強にするとほぼアクセルOFFだけでOKなくらい。それでもGの立ち上がりはとても穏やかです。回生ブレーキは後輪のみにかかりますが、ブレーキング時に荷重が前に移動してもリア荷重が抜けにくいので、挙動が乱れにくく、ESPのお世話になることは一度もありませんでした。
ちなみに全長は8360mm、全幅は2320mmという巨体ですが、走っているとその大きさを感じない軽快さと操作に忠実なハンドリング(スローだけどダルじゃない)に驚きます。その印象を開発者に伝えると「バッテリー搭載による低重心化と前後重量配分適正化が効いていると思います」と教えてくれました。
■悪路でも余裕の走破性! eキャンターが雪道&登坂でEVトラックの実力を見せる!
中継地点でUターンします。この時に切り返しが必要でバックしましたが、スクエアなキャブに加えてバックカメラのおかけで楽々行うことができました!
今度は上り坂を上がっていきます。
路面は圧雪ながらもカチカチで「発進は大変だろうな」と思いましたが、アクセルを踏むと何事もなくトラクションがかかります。スタッドレス(TOYO M919)の性能の高さもありますが、やはり緻密な制御が可能なモーター駆動の強みが出ています。
いじわるなテストでアクセルをべた踏みしてみましたが、ASR(空転防止装置)がかすかに作動する程度でした。このトラクションの良さはコンディションが悪い状況で何度もストップ&ゴーをするトラックドライバーにとってはストレスレスでしょう。
駆動力はスペック的には「苦しいかな?」と思いきや、実際に走らせるとディーゼルエンジンを超える力強さ。もちろん乗用車EVのような伸び感はなく頭打ちも速いですが、用途を考えれば問題ありません。
加速の時の印象は制動時と同じくGの立ち上がりはとても穏やでしたが、開発者に聞くと「電動車はどのようにでも味付けはできますが、目指したところはラフな操作をしたとしても荷崩れさせないことです」と教えてくれました。ただ、このGの立ち上がりがドライバーにとっては速度コントロールのしやすさにもつながっていると感じました。
加えて、音や振動が出る要素がないので室内もとにかく快適です。フル液晶メーターにセンターディスプレイ、どこかで見たことのあるような空調操作ダイヤルに加えて、オレンジのステッチ・ワイポイントがオシャレなコーディネートなど、インテリアは、下手な乗用車顔負けの質感です。
■寒さに強いEVトラック! eキャンターのバッテリー&暖房性能とは?
ちなみに冬場のEVは暖房使用による電費悪化が大きな懸念材料ですが、このあたりも抜かりなしです。高断熱キャビンに加えて、電気温水暖房PTCヒーター、シートヒーター&ステアリングヒーター、フロント熱線(ウインドシールドヒーター)などにより、電費低下は2割以下に抑えられていると言います。
今回は気温0度前後の状況で、ヒーターOFF、ステアリングヒーター&シートヒーターONで走行しましたが、問題なし。欲を言えば相対的に足元がスースーするのでトヨタ bZ4X/SUBARU ソルテラに装着される輻射(ふくしゃ)ヒーターのようなデバイスがあるといいな…と思いました。
さらにバッテリーは寒いと本来の機能を発揮できませんが、低温環境でも安定したEVシステムの起動に加えて、バッテリープレコンディショニング機能(AC充電時にバッテリーを予熱)などにより、起動性も問題なし。このあたりは気温がマイナス30度にもなる北欧でも実証されています。
■EVトラックでジムカーナ!? eキャンターが見せた驚きの運動性能
続いて特設コースでの試乗です。ここではワイドキャブでホイールベースは3400mm、モーター出力は175ps/430Nm、バッテリーは82kWhというスペックに試乗しました。ちなみに車両重量は4320kg+積み荷約1500kg(最大積載量は3000kg)となっています。
公道ではないのでASRをOFFにして走らせます。
ゼロ発進加速や定常円旋回、さらにはS字~タイトターンと簡易的なジムカーナコース(!?)です。フラットなコースで軽量フロントタイヤのグリップさえ意識すれば、トラックとは思えないほど元気に走ります。
上り坂でも力強さを感じたパフォーマンスはフラット路面ではそれ以上で、アクセルONでテールスライドも可能です。その時もグラっと傾き「おっとっと」と言うような危なげな動きではなく、良くできたFRっぽい動きをします(笑)。
公道では絶対にやっちゃダメですが、逆を言うと何かあっても対処できる懐の深さを持っていると言うわけです。
■物流のEVシフトは進むのか? eキャンターが示す新たな選択肢
ちなみに今回はこの試乗会に合わせて、北海道電気相互の「電源車」が協力していました。元々は災害時用(4階建てビルに相当する電気を発電可能)に開発された物ですが、今回のような充電サービスはもちろん、EVの電欠を救うようなサポートもできるそうです。
そろそろ結論に行きましょう。
寒冷地でのEVトラックは航続距離が限られているので普通のトラックのように万能ではないものの、用途に合わせて使えばアリかなと考えます。実際に使っている人に聞くと「一度EVトラックに乗ってしまうと、運転のしやすさ、力強さ、快適さで元に戻れなくなる」と言います。
日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指していますが、その動きは物流の世界も無視できません。eキャンターは現時点では小さな一歩かもしれませんが、日本のEVトラックのパイオニアとして進化の手を止めないで進んでほしいです。小型EVトラックが当たり前になる時代のために…。