2025年2月4日から3月2日まで横浜にある日産グローバルギャラリーにて日産「パトロール」が期間限定で展示されています。どのようなクルマなのでしょうか。
■パトロールを理解する10のポイント…的な
昨今、日産に関する様々な話題が報道されています。真相は不明ながら、クルマ好きとしては日産車の良い話が知りたいところ。
そんななか2月6日から日産グローバル本社ギャラリーで日本未発売の「パトロール」が展示されているようです。どのようなクルマなのでしょうか。
ちなみに同期間には「パトロール (1972年: 60)」、「サファリ 4WD ハードトップ標準ルーフ AD(1985年:161)」、「サファリ 4ドア ターボディーゼルグランロード(1997年:WRGY61)」の姿もあるようです。
日本では販売していないのでパトロールという名前を知らない人がほとんどかもしれませんが、なかにはピンとくる人もいるかもしれません。
そう、かつて「サファリ」として販売していた日産の大型SUVです。
日本では2002年に販売を終了したサファリですが、海外ではパトロールとして販売中。
2024年秋には14年ぶりにフルモデルチェンジし、新設計のラダーフレームに新開発エンジンを搭載した7世代目の新型がデビューしました。
筆者はサウジアラビアで開催された現地メディア向けの試乗会に参加。そこで感じた新型パトロールの印象と凄さ、そして特徴を10個のポイントでお伝えしましょう。
【1.車体サイズはトヨタ「ランドクルーザー300」よりもひとまわり大きい】
実車を見てまず感じたのは、堂々とした佇まい。立派に見えるデザインもありますが、そもそもボディが大きいのです。
サイズ感は、ライバルとして目されることが多いトヨタ「ランクル300(ランドクルーザー300)」と比べてみるとよくわかります。
ランクル300のボディは全長4985mm×全幅1980mm。いっぽう新型パトロールは全長5350mm×全幅2030mm。ひとまわり大きいのです。全長は40センチ弱も違うのですから、結構差がありますね。
これは同じモデルを北米において「アルマーダ」として販売する関係から、シボレー「タホ」やフォード「エクスペディション」など北米のフルサイズSUVと戦うためという背景もあるでしょう。
しかし、中東でも「室内の広さは正義」という文化があってそれに応える狙いもあるし、またランクル300とガチンコで争うことなく棲み分けできるという面もあると考えられます。
ちなみに中東地域においてパトロールはもともと根強い人気がある上に、ここへきてマーケットにおけるシェアも拡大中。アメリカンSUVたちからシェアを奪っているようです。
【2.エンジンはフェアレディZ用とも繋がりがある3.5Lツインターボ】
搭載するエンジンは2タイプあり、ベーシックタイプは最高出力320psを発生する3.8LのV6自然吸気エンジン(VQ38DD)。
こちらは従来モデルからの継続採用です。そして注目は高出力タイプとなる3.5Lのツインターボエンジンで、こちらは431psという最高出力に加えて、700Nm(ランクル300のガソリン車よりも太く、そのディーゼル車と同じ)という極太トルクが特徴。
2.8トンを超える車体をグイグイと前へ押し出してくれます。
そんな新開発エンジンの型式は「VR35DDTT」。鋭い人はピンとくるかもしれません。
パトロールに搭載するためにブロックから新たに設計された新型エンジンですが、「スカイライン400R」や「フェアレディZ」に搭載する「VR30DDTT」の排気量拡大版。つまり兄貴分となるスポーティユニットなのです。
ボアはVR30と同じ86mm。いっぽうストロークはVR30の86mmから100.2mmへと拡大しています。
また、高負荷&高温環境となる砂漠走行に対応するために、ターボチャージャーの耐熱寿命が日産の標準的なターボエンジンに対して2.5倍というのも凄いし、いかに砂漠での走りがクルマに負担をかけるかを物語るエピソードですね。
スポーツエンジンであるVR系の流れを組むだけあって、ドライバビリティもエモーショナル。
溢れんばかりのトルクにも驚かされますが、エンジン回転が上がる際の高揚感、そして高回転の盛り上がりもさすが。
SUVとは思えない躍動感を提供してくれます。新型パトロールは決して運転が退屈なSUVなんかじゃありません。
【3.インテリアはラグジュアリーで先進的】
筆者が試乗したのは最上級グレードの「LEプラチナム シティ」でしたが、そのインテリアは先進的かつラグジュアリー。
ダッシュボードの上には14.3インチのディスプレイが2つ並んで先進イメージだし、シートやドアトリムはもちろんダッシュボードもステッチ入りのレザー仕上げとしてプレミアムな印象です。
このラグジュアリー感はランクル300を超えるもので、「レクサスLX」に匹敵するクオリティといっていいでしょう。インテリアの上質感は「ランクル300超え」と断言できます。
【4.乗員の表面温度を測って制御する最先端のエアコン】
搭載するエアコンも最先端のタイプです。「バイオメトリック クーリング」と呼ぶ新機能は、内蔵された赤外線センサーが乗員の体温を検知。
乗員が「暑いと感じているか」を判断して温度と風量を自動で調整して快適な車内環境を保つというから斬新ですね。
実際に使ってみての印象は「これは凄い!」というよりは「確かに言われると快適かも」くらいでしたが、中東やオセアニアなど暑い地域ではきっと喜ばれることでしょう。
日産の資料によると「2列目では通常のエアコンよりも50%早く冷える」のだとか。
【5.アテーサE-TSにルーツを持つ4WDシステム】
搭載する4WDシステムは「オールモード4×4」。前後の駆動トルク配分は0:100を基本としつつ、状況に応じて電子制御多板クラッチを介して最大50:50まで前輪へ駆動トルクを振り分けます。
そんな説明を聞いて「アテーサE-TSの考え方では?」と感じたクルマ好きもいるかもしれません。
もちろんその通りで、ハンドリングとトラクションを両立する4WDとしてR32型GT-Rに搭載されたシステムの進化版なのです。
もちろん本格悪路走行を考えたSUVなので、ローギヤを選べる副変速機やリアデフロック機構といったオフロードデバイスも搭載。
走行状況に合わせて制御を変更できるドライブモード切り替え機構は、オンロード向けがスタンダード、エコー、スポーツ、オフロード用としてサンド(砂)、ロック(岩)、そしてマッド(泥/ぬかるみ)の7タイプから選べます。
■まだまだスゴいところは盛りだくさん!
【6.タイヤに空気を入れる電動エアポンプを純正設定】
砂漠も走るクルマらしい装備といえるのが、タイヤに空気を入れるための電動エアポンプ。新型パトロールはそれが純正オプションとして用意されています。
実は砂漠を走る際は、接地性を高めてスタックを防ぐためにタイヤの空気圧を落とします(150kPa程度まで下げるドライバーもいる)。
しかし砂漠走行を終えた後は空気圧を元に戻す必要があり、その際はドライブイン的な施設などでお金を払って充填するのが一般的。
しかしエアポンプを車載していれば、わざわざお金を払う必要もないし、空気を入れる施設がなくても空気圧を上げられるから便利というわけですね。
ちなみに砂漠走行を楽しむSUVユーザーの中には車両購入後にアフターマーケット品を搭載する人もいますが、新型パトロールはそれを純正採用したのがポイントです。
【7.日産SUVとしてははじめてのエアサスペンションを搭載】
新型パトロールのサスペンションは、前後ダブルウィッシュボーンとした4輪独立式。
組み合わせるショックアブソーバー&バネは3タイプあってベーシックなのは一般的なサスペンション、上級になると電子制御ダンパーが組み込まれ、さらに上となるとエアサスペンションにアップグレードされます。
そしてエアサス装着車は上に5cm、下に7cmの車高調整も可能。オフロードでは車高を上げ、高速走行や乗降時は低くできるというわけです。
何を隠そう、エアサスペンションを装着する日産車はかなりひさしぶり。前回採用していたのは、筆者の記憶をたどると1988年デビューの初代「シーマ」だった気がします。ということは30年以上ぶりかも。
【8.ラダーフレーム車とは思えない乗り心地と人馬一体感のあるハンドリング】
そんなエアサスペンションの効果もあってか、試乗車の乗り味はかなりインパクトのあるものでした。
まず乗り心地がいい。ラダーフレーム車でオンロードを走ると、一般的に細かい突き上げが多めでそれが乗り心地を悪化あせます。しかし、試乗したパトロールではそれが極めて少ないのです。
また、ラダーフレーム車にありがちな操縦性として、フレームとボディの間にゴムが挟まった感じというか、どうも地に足がつかないフワっとした感覚があります。
しかし、新型パトロールはそこも常識外れ。ハンドル操作に対する反応遅れが少ないなど、ドライバーとクルマの一体感が高いのが印象的でした。
【9.アクセルワークで振り回せる。砂漠でのコントロール性がいい】
新開初のVR35DDTTエンジンはかつてのSUV用エンジンでは考えられないほどレスポンスが良く、すなわちアクセルワークで絶妙なトラクション具合を調整しやすいといえます。
そしてドライバーの操作を忠実に受け入れるサスペンションや良好なハンドリングを作る4WDシステムとの相乗効果でもたらすのが、高いコントロール性。
砂漠走行でもスッと曲がるうえに、旋回中にアクセルを踏んでいけばテールスライドが発生します。
そこから先がポイントで、テールスライドを制御しやすいから、腕さえあれば自由自在にクルマを振り回せるのが好印象。
砂漠での運転が楽しいオフローダーなのです。
【10.オンロードにおける超高速域の安定性がズバ抜けている】
何を隠そう、筆者が新型パトロールの試乗でもっとも驚いたのはオンロードでの走りでした(当然ながらオフロード走行のレベルも高いのですが)。
どこが凄いかというと、それは超高速域のスタビリティです。
日本の制限速度をはるかに超える速度で走っても安定性が高く、生粋のオフローダーの巡航性能だとは思えないほど。
オフロード性能とオンロード性能のハイレベルな両立が素晴らしく、高速巡航マシンとしてのポテンシャルの高さは驚異的でした。この性能はランクル300に勝ると断言できます。
※ ※ ※
そんな新型パトロールですが、残念ながら日本に導入される予定はありません。
しかし、日産のブランドイメージ向上のためには日本での販売もぜひ検討するべきだと筆者は考えます。
少量販売でもしっかりと利益を出せる価格設定としたうえで、日本で販売。
そして日産ファンを作る存在となる。そんな流れを期待しないわけにはいきません。