トーヨータイヤから登場した小型EVトラック専用スタッドレスタイヤ「NANOENERGY M951 EV」を三菱ふそうの小型EVトラック「eキャンター」に装着し、その実力を冬の北海道で検証しました。
■トーヨータイヤの新たな専用タイヤ「トラック専用スタッドレス M951 EV」
「いいクルマはタイヤの性能に依存しない」と言われますが、実際はタイヤの性能によってクルマの性格や性能は大きく変わります。
そんなタイヤの世界に「専用タイヤ」という考えを持ちこんだのが、トーヨータイヤです。代表的なモノは1983年に4WD/SUV専用タイヤとして登場した「オープンカントリー」、1995年にミニバン専用タイヤとして登場した「トランパス」です。
どちらも登場時はニッチな商品でしたが、今では同社を支える大ブランドとして成長しています。要するに「トレンドの見極めが上手」というわけです。
そんな中、新たな専用タイヤが登場しました。それが今回紹介する小型EVトラック専用スタッドレス「NANOENERGY M951 EV」(以下、M951 EV)です。
日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指していますが、その動きは物流の世界も無視できません。そのため、現在商用車メーカーはEVトラックのラインナップ強化を行っていますが、トーヨータイヤはそこにいち早く対応したというわけです。
EVトラックは小口配送が主となるためストップ&ゴーの頻度が高い上に、モーター駆動による高トルクで波状摩耗(トレッド面が不均一の波状に減る)が起こりやすいです。それを防ぐにはトレッド剛性を上げる必要がありますが、それだけだとスタッドレスに求められる氷雪上性能は低下してしまいます。
■耐摩耗×氷雪性能の両立!トーヨータイヤ「M951 EV」の革新的設計とは?
この相反する性能をM951 EVはどのように両立させたのでしょうか? 1つはトラック用としては珍しい「左右非対称パターン」です。
OUT側はリブ基調パターン/高精度ショルダーリブの採用で耐偏摩耗性を向上させつつ、高密度3Dサイプの採用で氷雪上性能を確保。一方、IN側はブロック基調パターンの採用で高トルクに対応したグリップを発揮させつつ、千鳥配置ブロックの採用で剛性を高めています。要するにIN/OUTに主となる役目を与えながら、全体でバランスを取っているというわけです。
もう1つはコンパウンドの配合設計です。エネルギーロスを低減できるトーヨータイヤ独自の技術「ナノ・コンポジット・ポリマー」の採用でゴムと充填(じゅうてん)剤(フィラー)を均一に混ぜ込むことができ、最適なコンパウンド設計が可能になったと言います。その結果、現行商品の汎用(はんよう)スタッドレス(M919)に対して転がり抵抗を15%低減、耐摩耗性能を38%向上させています。
■実走テストで体感! M951 EVがかなえた「ハンドリング×グリップ×安定性」
その実力を確かめるために、今回は北海道のルスツリゾートにある特設コース(ゼロ発進加速や定常円旋回、さらにはS字~タイトターンと簡易的なジムカーナコース)でM951 EVを三菱ふそうeキャンターに履かせてテストしてみました。
まずは比較用のM919で走ってみましたが、正直に言ってしまうと「これでいいじゃないか」と思いました。違いは本当に感じられるのかと心配しましたが、M951 EVで走り始めて即座に違いを実感しました。
まず驚いたのはステア系です。まるで支持剛性を高めたかのような骨太なフィールと、ステアリングのギアの遊びを詰めたかのような応答性、さらにタイヤからの情報がより濃厚になっています。これはスタンダードタイヤからスポーツタイヤに交換したかのような差に近いなと感じました。
ハンドリングも確実にアップしています。絶対的なグリップはM919同等のようですが、実際に乗っている感覚はよりグリップが高い印象です。恐らく、ステアリングを切り始める→応答がいいので素早く旋回姿勢に持ち込める→4つのタイヤのグリップを今まで以上に上手に活用→より安定/より楽に旋回ができるというわけだと思います。トラックでこんなことを言うのもアレですが、M951 EVはM919よりも間違いなく「意のままのドライビング」が可能なタイヤに仕上がっています。
ブレーキングは急制動を試した時にペダルを踏み込んでからグリップが立ち上がるまでM919よりもわずかにラグを感じたものの(剛性が高いのでタイヤがつぶれにくいのが原因!?)、絶対的な制動力は同等レベルと言っていいでしょう。逆に緩いブレーキの時は姿勢変化が少なくフラつきが抑えられていました。
■耐摩耗性能・氷雪性能・ハンドリングの全方位が進化しているM951 EV
総じて言うと、M951 EVは耐摩耗性能と氷雪上性能を高次元で両立させた結果、ハンドリング性能も向上し「1粒で3度おいしい」スタッドレスタイヤに仕上がっています。
開発者に話を聞くと「企画側の要求レベルが高いので、今回は当社が持つ技術をフル活用して開発しました」と教えてくれました。ちなみに小型EVトラック専用とうたっていますが、内燃機関の小型トラックに履かせても上記の良さは実感できるそうです。
現時点ではかなりニッチな商品ですが、筆者は将来的にはオープンカントリーやトランパスのように“大物”に化けると信じています。