地球温暖化などの影響で生産量が減っているワサビを、荒廃していた畑を再生して本格的に栽培しようと、宮城県北部の農家らが奮闘している。ワサビは沢などでの水栽培で知られるが、日光が当たりにくく湿気のある畑でも育つため、加工会社が新たな生産地として冷涼な宮城県の山あいに目をつけた。栽培農家は「地域の特産品にするのが目標だ」と意気込む。(共同通信=奥村湧太)
「ずっしりしているね。こんなに大きくなるとは」。6月中旬、同県加美町の農家氏家賢司さん(76)は、初収穫した“畑ワサビ”を手に笑顔を浮かべた。すり下ろして食す部分の「根茎」は、水栽培のものに比べて小さいが、植物としては同一だという。
県の実証事業に参加し、2022年11月、使っていなかった3カ所の畑計約10アールに約4700株を植えた。この日は順調に生育した1カ所で近隣農家らの手助けを受けて収穫。根茎と、葉っぱにつながる「葉柄」の計約300キロを岩手県の加工工場へ出荷した。
林野庁によると、2022年のワサビの全国生産量は約1635トンで、うち4割が畑栽培だった。都道府県別では、安曇野市が産地として有名な長野が1位、伊豆半島で栽培が盛んな静岡が2位、畑栽培が大部分を占める岩手が3位につけ高知、島根などが続く。上位3県で8割超を占めた。
ただ全国生産量はここ10年間で4割も減った。温暖化や農業離れが原因とみられる。
宮城県の実証事業は食品メーカーの金印(名古屋市)の要請で始まった。同社によると、ワサビは海外需要が高まっており、新たな産地として宮城に着目。同社が全て買い取り、業務用のおろしワサビに加工する。
氏家さんは「特別な農機は要らず、他の作物の繁忙期とも重ならない。手間が少なかった」と振り返った。実証事業自体は今回で一区切りだが、宮城県北部1市2町では氏家さんを含む8人が今後も栽培を続けるという。
県によると、辛み成分の効果か、対策をしなくても野生動物による食害がなかった。県北部地方振興事務所農業振興部の伊藤吉晴技術次長は「荒廃した畑が宝の山に生まれ変わる。どんどん新規参入してほしい」と強調した。