昭和初期から半世紀もの間、キャラメル菓子「グリコ」のおまけを作り続けた玩具デザイナー宮本順三さんが、88歳で亡くなって今年で20年。作品など約5千点を展示する大阪府東大阪市の「豆玩舎(おまけや)ZUNZO」は、激動の時代に子どもの幸せと向き合った生涯に触れられる私設記念館だ。(共同通信=山下憲一)
「好奇心も行動力も並外れた永遠の青年。順三の情熱は今も生きています」と孫の磯田宇乃さん(51)。館の運営を担う立場で「おもちゃが愛される国は平和で豊かだと語っていた祖父の思いを伝え広めたい」と話す。
大阪・心斎橋の呉服商の家に生まれた宮本さんは、母の病死に伴いセルロイド加工会社を営む親類の養子に。セルロイドのおもちゃに囲まれ、住吉大社などの縁日で屋台の郷土人形などに親しむ中で、伝統も流行も映し出す玩具に魅せられた。
その後、油彩を学んで画家を志すも養父が反対し、高等商業学校に進学。グリコ(現江崎グリコ)の採用面接で「おまけをやらせて」と訴え、新設の「おまけ係」となった経緯は、1991年刊行の自伝「ぼくは豆玩」に詳しい。
近鉄奈良線八戸ノ里駅前の記念館には、紙や木で作った戦時中の素朴な作品や、終戦後に家業を立て直しつつ考案した人気作「豆虫めがね」など、往年のおまけがずらり。高度成長期に普及が進んだ冷蔵庫をミニチュアにするなど、世相を読む鋭さも感じさせる。
宮本さんが国内外で収集したミニチュア人形、民族色豊かな仮面なども紹介。それらで構成した展示品「ZUNZO曼陀羅」は多様な存在の共生と平和を表し、「おもちゃは神様からの贈り物。子どもにはゆったりと育ってほしい」との願いが込められているという。
新型コロナウイルス禍で減った来館者も回復。大阪・関西万博を念頭に、世界のミニチュア建築などを集めた企画展も好評だ。「おもちゃ作りの創意工夫を伝える講座もあります。みんなで学び育てる場にしたい」と磯田さんは意気込む。問い合わせは同館、電話06(6725)2545。
グリコ 栄養素「グリコーゲン」配合を売り物に、1922年に発売した。競合商品を意識した名前やパッケージの工夫と並び付録を重視し、当初は「絵カード」を封入、1929年からは玩具を入れた小箱を付けて販売。「何が出るか分からない」新鮮さが人気を呼んだ。これまでに約3万種、約55億個を封入。江崎グリコは現在「おまけ」の呼称を使用していない。