岩手県陸前高田市などで古くから親しまれてきた在来の茶「気仙茶」は、製茶工場がある産地では日本最北で「北限の茶」と呼ばれる。農薬を使わず、爽やかな香りとほのかな甘みが特徴だ。2011年の東日本大震災で消滅の危機にさらされ、地元住民らが後世につなごうと活動している。(共同通信=広部日菜)
6月上旬、海を望む同市の畑で茶摘み体験会が行われた。有志の生産者らでつくる「北限の茶を守る気仙茶の会」が歴史や摘み方を説明し、子どもから大人まで約20人が新芽を籠いっぱい摘み取った。振る舞われた気仙茶を飲んだ参加者は「甘みがあっておいしい」と笑顔を見せていた。
会によると、気仙茶は陸前高田市や大船渡市など気仙地方で、主に自家消費用として栽培されてきた。陸前高田市が発祥の地とされ、江戸時代から300年以上の歴史があるという。現在、20軒ほどが生産している。
生産者の高齢化や生活の変化で栽培が減少していたところに東日本大震災が起き、地域は津波で甚大な被害が出た。茶樹が流されたり、枯れたりしたほか、東京電力福島第1原発事故の影響で、2012年6月に岩手県から出荷自粛を要請された。
気仙茶の消滅危機に直面した地元の生産者や愛好者らが2012年に守る会を設立。当初から会の代表を務める農業菊池司さん(75)は「300年も続く気仙茶は地域の宝。絶対後世に残したい」と力強く話す。
会は県内外のボランティアの力を借りながら、津波被害に遭った茶樹の再生や除染のために枝を刈り払った。2013年6月には出荷自粛要請が解除され、再び茶摘みが始まった。三陸沿岸道路の建設工事で伐採予定だった茶樹を移植する保全活動にも取り組んできた。
手摘みのため増産は容易でない。現在、茶葉を販売するのは市内のカフェなどごく一部にとどまる。菊池さんは「今より多く流通させて、たくさんの人に味わってもらいたい」と話した。