元最高裁判事で9月13日に95歳で亡くなった園部逸夫さんは皇室制度に造詣が深く、政府の有識者会議に参画し、皇位継承問題の議論の中核を担ってきた。
約20年前にまとめた女性天皇容認の改革案は幻に終わり、今も皇位継承の安定化には至っていない。
議論の基礎として天皇や天皇制の意味を根本から考える必要性を説いたが、結末を見ることはできなかった。(共同通信=志津光宏)
▽本能
「私は戦前に生まれ、敗戦後のひどい状態を見てきた。当時は天皇制は不要という思いもあった」。
1929年生まれの園部さんは今年4月のインタビューで率直に語っていた。
その上で「日本人は本能的に天皇制が良いと感じている。深く考えずに存在を肯定している」との認識だった。特に皇室制度に関しては「無関心だろう。天皇が国民にとって、どのような意味があるかを考えている人は少ない」と続けた。
一方、天皇制の是非について、醸成してきた自身の本心を明確にすることはしなかった。
▽平等
園部さんの足跡をたどると、その一端が垣間見える。
2005年の小泉政権下、有識者会議の座長代理として、女性天皇を容認する皇室典範改正案を取りまとめた。女性・女系天皇に皇位を拡大させることは「大きな意義」と提言した。
内閣官房参与として携わった2012年の有識者ヒアリングでは、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設を検討した。
天皇制を維持する上での現実的な方策を示す一方、女性天皇が実際に社会に浸透するかどうかは容易ではないとみていた。
世界各国で女性の首脳が選出される中、日本は依然、男性中心の社会を脱せずにいる。皇位継承議論が停滞する理由もそこにあるとの考えをにじませた。
「私は女性でも男性でも、どちらでもいい」。園部さんはインタビューでさらりと語り「戦後の憲法の下、男女平等という新しい伝統ができた。天皇が女性でなぜ悪いのか」と法律家らしい言葉を紡いだ。
社会意識の変化を踏まえ、一人一人が天皇の存在意義に立ち返り、ふさわしい制度が構築されるよう最後まで願っていた。