インド北部バラナシにあり、日本のバックパッカーたちに「伝説の宿」とも言われる「久美子の家」が5年ほど休業することになった。建物はインド人実業家に貸し出し、その間は別のホテルになる。2024年9月から改装作業が始まった。旅人たちがこの宿で荷を下ろし、思い出をつくるのはしばらくお預けだ。(共同通信ニューデリー支局 岩橋拓郎)
「また帰ってきます! バラナシ最高」「インドうざい、くさい、うるさい、汚い。でも好きだった」。所々ひびが入る壁や柱に旅行者らのメッセージがたくさん書き残されていた。大半が日本語だが、韓国語や英語もある。
宿を始めたのは、東京都出身のガンゴパダヤイ久美子さん(73)。日本を訪れていた芸術家シャンティさんと知り合い結婚。1982年ごろに3階建ての自宅を宿に改修した。「日本人宿」の先駆け的存在だ。
大河ガンジス川が流れるバラナシはヒンズー教の聖地で、多くの巡礼者や旅行者が訪れる。川沿いの入り組んだ路地に安宿が密集しており、節約旅行を続けるバックパッカーを長年引きつけてきた。「久美子の家」はガンジス川を見下ろす一等地にある。
相部屋は1泊250ルピー(約450円)。久美子さんの後を継いだ長男ソーミョさん(44)が日本語で「安いでしょう。みんな言う」と笑う。小さい頃から宿で遊んでいて、日本人客から日本語を学んだ。
新型コロナウイルス禍でほぼいなくなった旅行者は戻りつつあるが、家庭の事情もあり建物を一時貸し出すことに。今はインド南部に住む久美子さんも理解を示したという。
貸し出しは5年で終了する予定だが、改装で旅人たちがメッセージを手書きした壁も柱も、置いていった山積みの日本の本もなくなる。元従業員のサントス・スリワスタワさん(34)は「この宿が忘れられてしまうとしたら、ちょっと寂しい」と話した。