今年9月、高知県室戸市の花火大会で、これまでの打ち上げ花火に加えて初めて手筒花火が披露された。実現に奔走したのは手筒花火で有名な静岡県から移住した漁師の男性。
全身に火の粉を浴びながら自ら打ち上げを成功させ「西日本で手筒花火といえば室戸と言われるように」と、次の「夢」を口にした。
暗闇の中、黒い腹掛け姿に足袋を履いた花火師らが荒縄が巻き付けられた竹筒を抱えると、先端からだいだい色の火柱が上がった。
高いもので約10メートル。「シュー」という音とともにまぶしいほどの光が辺りを照らし、数十秒後「ボンッ」という音が周囲の空気を震わせた。観客はどよめき、盛大な拍手を送った。
企画を実現させたのは、静岡県沼津市出身の村崎剛さん(52)。自身も打ち上げに加わった。
元々はダイビング関係の仕事をしており、2016年に競合の少ない室戸に移住したが「一年中稼げるように」とキンメダイ漁師に転向した。しかし黒潮の蛇行によるとみられる不漁が続くようになり、新型コロナウイルスが流行。町の雰囲気は暗くなり「ポジティブな話題がなくなった」。
20年には長年の友人を亡くし、落ち込む日々。22年10月ごろ、知人の交流サイト(SNS)のプロフィルに添えてあった手筒花火の写真をたまたま見かけ、ひらめいた。「線香の代わりになるんじゃないか」
亡くなった友人への思いと「みんながワーッと楽しめることをしたい」という、室戸を元気にしたいという気持ちが重なった。静岡市や静岡県清水町の祭りに参加し、花火師にいちから作り方を学んだ。
室戸市内の住民や企業約60件を回って寄付金を集め、行政への許認可にも奔走し「一人で全て段取りしたことや安全への配慮が大変だった」。
苦労もあったが、9月の本番には世話になった花火師6人が静岡から駆け付けてくれた。
花火大会では、大小計44本の手筒花火を打ち上げ、約300人の観客が詰めかけた。
村崎さんは充実した表情で「最高だった。来年も再来年も続けていきたい」と笑顔で話した。
村崎さんの立ち上げたグループ「室戸煙火会」は仲間を募集中だ。