「オオカミウオはかむ気満々の歯並び。骨が茶色に変わりやすいソイは、たくさん脂を含んでいるってこと」。北海道・利尻島の漁業井上竜駿さん(32)=利尻町=が骨格標本を手に笑顔を見せた。コンブやウニ漁を営む一方、他の漁師の刺し網にかかった魚を外す作業を手伝い、水揚げ量が少なく市場に出荷できない分をもらって制作に取り組んでいる。「『かっこいい』『怖い』など、見た人の心が動いたら」と話す。(共同通信=星井智樹)
海がない奈良市出身。幼い頃、大阪市の水族館「海遊館」を訪れて魚好きになり、水産資源を学ぶため東海大海洋学部(静岡市)に進学した。先輩が飼っていたシルバーアロワナが死んだ際に初めて全身の標本を作り、「☆(順の川が峡の旧字体のツクリ)の骨がよろいみたいだった。図鑑でも見たことがなかった」と魅了された。
卒業後、道内の水産会社に勤めたが、2018年、漁師になるため利尻島に移住。島で取れる魚の多くは骨が硬く標本にしやすいといい、これまで100点以上を制作した。
まず身を丁寧に取り除き、竹串を使って口の開き具合などポーズを調整して乾燥。その後、アセトンや灯油で脱脂し、再び乾燥させると出来上がりだ。「作業中は楽しいわけではないが、完成した時に達成感がある。山登りに似ているかな」
2023年、50種の標本を並べたポスターとクリアファイルを作成し、島の博物館などに置いてもらった結果、徐々に認知されるようになった。インスタグラムでも作業前の魚と、完成した標本の写真を投稿。骨格の特徴を説明するほか「網から外しにくい」など漁師目線で解説している。
これまでは主に頭部のみだったが、今後は全身の標本に挑むつもりだ。作業量は格段に増えるが、島の博物館に寄贈するなどして学術的な取り組みにつなげたい考え。「自然科学に興味を持ってもらえれば」と、子ども向けの本を出す構想も練っている。