「好き」という原動力が人を動かし、開かれた居場所と貴重なアーカイブが育った。9月の週末、神戸映画資料館(神戸市長田区)のスクリーン前には懐かしい邦画や最新のSF洋画、冒険活劇アニメなどチラシの山。語学が得意な70代や整理好きの早期退職者、昭和初期のアニメ映画好きの30代など、さまざまな人も集まり「みんなで資料整理」のイベントが始まった。(共同通信=長谷部久乃)
館長を務めるのは、神戸市出身の安井喜雄さん(76)だ。大学の映画研究会を皮切りにフィルムを個人収集し、収蔵先を探す中、阪神大震災で被災した長田区の活性化事業として、2007年に資料館がオープンした。
2万本以上のフィルムや2万5千冊超の本、ポスターやチラシなど資料も収蔵する。寄贈もあり、国内最大規模の民営フィルムアーカイブとなった。
アーカイブ施設では収集に加え、活用のための整理も重要だ。人手が足りず、支配人の田中範子さん(55)が昨年5月、中学生以上で参加時間自由のボランティアを募集すると、思いがけず人が集まり、以降毎月、資料整理のイベントが開かれるようになった。
9月の会には十数人が参加。映画のチラシを和洋その他とジャンルで分け、タイトルの音順にファイルにとじていく。「この映画、見たかった」「うわ、懐かしい」。口々に感想が漏れる。
「ハッピーがあふれそうなので、この辺で止めておきますね」との声には皆「?」。何かと思えば、同じタイトルが多く、ファイルが「ハッピー」でいっぱいに。一同笑い合った。午後3時にはティータイム。途中で帰るのも自由で、気が付けば閉館が近づいていた。
「映画の好みが違っても、作業しながらだと会話が続く発見もあった。集まった人たちがこの場をつくって来た」と喜ぶ田中さん。安井さんも「今も昔も一生懸命映画を作った、たくさんの人たちがいる。アナログが失われていく中、その成果を残しておかないと」と語り、フィルム映画の明かりをともし続ける。
◎フィルムアーカイブ活動
映画フィルムや関連資料などの収集・保存・復元・公開などを行う。国内では国立映画アーカイブに加え、川崎市市民ミュージアム、京都府京都文化博物館、広島市映像文化ライブラリー、福岡市総合図書館などが活動する。公的な映画保存活動の開始が遅く、関東大震災や太平洋戦争の空襲で多くのフィルムが焼失・散逸したという。