鳥取県西部を拠点に、それぞれの病気や障害を乗り越えた軽音楽ユニット「T・R」が活動している。Tこと早川泰詞(はやかわ・たいじ)さん(62)はギターでの弾き語り、Rこと名越琉夏(なごし・るか)さん(24)はリズムとコーラスのアレンジを担当。早川さんは「演奏で障害がある人や支える人に元気を届けたい」と思いを語る。(共同通信=阿部優歩)
名越さんは通っていた県内の高校2年の冬休みに脳出血で倒れ、左半身にまひが残った。リハビリ先の病院で出会ったのが、作業療法士の早川さん。早川さんがギターを弾くのを見て興味を抱き、リハビリの一環でギターに挑戦するようになった。右手は名越さん、左手は早川さんが演奏し、1本のギターを2人で弾いた。
名越さんの抜群のリズム感を「天才的」だと感じた早川さんは「指を駆使すれば片手でも両手に近い音が出せる」と、南米発祥の打楽器「カホン」を演奏するよう勧めた。その期待通り、名越さんは右手のみでさまざまな音色を響かせた。
2020年9月、2人は「T・R」を結成。しかし今度は早川さんが同10月に脳出血、12月に脳梗塞と立て続けに病魔に襲われた。「琉夏くんとライブがしたい」との一心で、ギターが弾けない状態から懸命にリハビリし、2021年4月に同県米子市のホールで開催のコンサート「桜奏(はるかなで)」に出演。会場は大きな拍手で包まれた。
人前で演奏したり、歌ったりするのが苦手だった名越さんだが、早川さんとともに演奏を重ね、徐々に前向きな性格に。21年秋には走る練習を始め、この様子を見て早川さんが楽曲「ぼくは走る!」を制作。「音楽の力はすごい」と曲を通して伝えている。
現在は互いの体調に配慮しながら月に1~2回、コンサート活動などを実施。名越さんの母真由美(まゆみ)さん(49)は「才能を生かしてどんどん世間に出ていってほしい」と期待を寄せる。早川さんは「琉夏くんと一緒に活動できることが最高の幸せ、神様からのギフトだと思う」と笑顔で話した。